雲助の「木乃伊取り」前半2014/11/07 06:33

 雲助、頭の白いのが目立った。 吉原は、誰でも褒めてくれる。 褒めると ころが全くなくても、顔を見て、驚いてみせる。 何? こちら、まあ容子が いい。 どこがとは、言わない。 あの女は、本物(ほんもん)だ。 あの女 は本物だ、と思っている内に、一文も無くなってしまう。

 夜泊り、日泊り、若旦那が吉原の角海老とかいう店に、行ったまま帰ってこ ない。 手前がと番頭、迎えに行って参ります。 堅い佐平に、角海老がわか るかい。 方角を聞いてでも行って参ります、と出かけ、二日、三日、五日、 帰ってこない。 倅は、勘当にするから…、というのが、また始まった。

 鳶頭(かしら)を迎えにやると、すぐに伺うと言って、なかなか来ない。 ウ チには道陸人(どうろくじん)=お袋、山の神、河童野郎がいて、なかなか出 られない、と。 化け物屋敷だな。 蔵の足場、すぐ組ませやす、長屋の屋根、 キリンという奴で巻き上げます、これからすぐ職人の所へ。 実は、ウチの倅 のことでな。 死んだんで? 縁起でもない。 吉原の角海老という所にいて、 番頭を迎えにやったが、帰って来ない。 大籬(おおまがき)です、ああいう 所の振合いは心得ています。 ちいせえ時分は女の子のようで、本ばかり読ん で、労咳になるかと心配なさった若旦那が、角海老で打(ぶ)ん流しをしよう てんですから、旦那と違って、金遣いがきれい…(と、口ごもり)、腐った半纏 の一枚も頂いているんですから。 腐った? 腐るほどの半纏。 一つ、迎え に。 四の五の言ったら、腕を叩き折っても、連れて参ります。 腕を叩き折 られちゃあ困るが…。

 鉦をジャンジャン、纏(まとい)を先頭に、エーイと木遣りを歌って出かけ た。 土手で、向うから野幇間が来る。 うるせえな、野暮用で行くんだ、と 駆け出す。 角海老で、談判しているところに、さっきの幇間が追いつく。 こ れはこれは、田所町の三遊び人がお揃いで…。 ワーーッという騒ぎになって、 また七日、帰らない。

 木乃伊取りが木乃伊になった。 勘当、暇出し、出入り止めだ。 婆さん、 お前がかばうから、あんな馬鹿野郎が出来るんだ。 そんなことを言って、あ なたは外に遊びに行かないけれど、ウチに置く女中には、みんな手を着けた。  ちょっくら、ごめんなさって。 誰だ、清蔵か。 オラが迎えに行くべえ、行 かしておくんなせえ。 お前は、飯が焦げないようにしていれば、いいんだ。  でも泥棒が入って、お前様ぶっ殺される時、オラは飯炊きをしていていいのか。  グウとでも言えるか、オラが行けば間違いない。 仕着せ文庫から手織り木綿 を出し、一本独鈷の帯に熊の皮の煙草入れを差し、一昨年買った草履を履く。  おかみさんが、巾着の中の金でお勘定をと、渡してくれた。