圓太郎の「藪入り」上2015/01/28 06:39

 圓太郎、初詣、初笑い、書初と、毎年繰り返すのだけれど、世の中それを大 事に一生懸命やっているのが、人生の勝者ではないか、そう思って一月を過ご している、と。 楽屋が大学出ばかりになった、駅伝の時がんばるような大学 もあるけれど。 仲入後だけは、大学出ていない。 大学コンプレックスを抱 えている。 学校案内で、芝生の上で女子学生が本を読んでいるようなのに、 憧れた。 小朝の弟子かと馬鹿にされるのはまだいいが、高卒かというのは応 える。 学歴ハラスメントだ。 大学出の噺家がいなくなったら、もっと住み やすくなる。

 母は昭和一桁生まれ、上の学校へ行きたいと言ったら、ウチのおばあちゃん に、縁談に差し支えると言われ、行かなかった。 小学校の時、ジーパンが流 行り出した。 そのあと、ジージャンが流行った。 私一人、お袋の手作り、 坊ちゃんのような格好で学校へ行った。 自転車は、5段切り替えが出て、み んな乗った。 ウチが質屋なので、27インチ・ドロップハンドルの大人用に乗 った、ツール・ド・フランスみたいなやつ、これが自転車で、それはオモチャ だ、と。 プロレスはみんなの話題だったが、親父があれは八百長だと言った。  ウルトラマンは、チャックを開くと、ジジイが出て来る、と。

 落語が下火の時代に、この世界に入った。 今は賑やかだけれど。 大人が 偉かった。 私みたいな芸人が出ても、拍手してくれた。 いま学校寄席に行 くと、拍手しない。 一月十五日だった成人の日が、フレキシブルになった。  役所が決ったことをやらない。 昔は偉かった。 奉公人は、余計なことを考 えないように、休みなし、手元で仕込んでくれた。 正月と盆の十六日前後に だけ「藪入り」「宿入(やどり)」があって、家に帰れる。 家が遠ければ、近 くでブラブラ遊んでいる。 よくて二三年経つと、「宿入」が許される。 これ は嬉しい。 親の方も、大変だ。

 三年ぶりに帰って来るんだよ。 亀は俺に似て辛抱強いよ、強情なところは お前に似ている。 いくつになったっけ。 十一。 おっかあ、何時になった?  十一時。 帰えったら、温ったかい飯だ。 お前は奉公してねえから、わから ねえ。 上から順繰りだから、底の方は固え、冷めてる。 何時になった? 十 一時ちょっと回ったところ。 亀に、納豆買ってあるか。 卵あるか。 昼は、 刺身で飯食わそう、魚金でマグロ、わさびをたっぷり。 鰻も食わしてやろう。  いいだろう、鰻屋へ連れてくよ。 かまわないよ。 仕舞は、大葉、葱、胡麻 かけて、うな茶だ。 お前の死んだ爺さんに似てるんだ。 浅草の洋食屋のオ ムライスを食わそう。 銀座のカツレツも、豚カツの薄いやつだ。 おっ母さ んの雑煮、お汁粉に白玉入れて、氷金時、そうだ、スキヤキも食わしてやろう。  野郎、オナカこわすね。 お前は奉公してねえから、わからねえ。