圓太郎の「藪入り」下2015/01/30 06:43

 うっかりしていたよ、お店の旦那様からコレ。 頂戴ものか、有難いな。 こ れは、あたいがお小遣いを貯めて、買って来ました、お口よごしですが…。 饅 頭か、神棚に上げとけ、お仏壇にも上げろ、長屋の衆にも細かく分けて、亀の お供物でございますって、配って来い。

 飯、炊けてんのか。 まだだよ。 言ったろ。 おっ母さん、ゆんべ寝てね えんだ。 そうだ、湯へ行って来い。 「宿入」の着物で行くな、お父っつあ んの印半纏に扱(しご)き(帯)でいい。

 おっ母、亀は大きくなったかな? 大きくなったかな、と聞いてんだよ。 何 よ、見てないのかい、自分で見なよ。 八つで奉公して、十一か。 おーッ、 大きくなったな、俺より大きいじゃないか。 お前さん、座ってんだよ。

 湯銭渡して。 田下駄ゲタ履いてけ、ドブ板に気を付けろ。 納豆屋、卵屋、 待ってろ、亀が湯へ行くんだ。 昔の白じゃない、さわるな、子供産んでから、 気が違ってんだ。 白が、亀の鼻の頭をなめているぞ、気が違ったんじゃない んだ。 大人は仇だが、子供は違うんだ。 白が亀にじゃれて、喜んでいるよ。  俺は、犬になりたい。 三年ぶりって言えば、湯銭負けてくれるかもしれない よ。 曲がったよ、おっかあ、亀、帰って来るよな。

 立派な着物だね、おかみさんが見立ててくださる。 小遣いを持たせようか と、子供のがま口、見たんだよ。 大変だよ、一番奥に、五円札が三枚、小さ く畳んで入っている。 初めての「宿入」で、十五円だよ。 駅長、校長さん だって、取っていないようなお金、何でそうなる。 訳をちゃんと聞いておく れよ。 俺のガキが「十五円」か、ニコニコしていたけど、目の芯が笑ってい なかった、喜多八と同じだ。

 ただいま、いいお湯でしたよ。 こっちへ、上れ。 おっ母さん、どうした の。 俺は貧乏していても、まっすぐに生きているから、どこにも恥ずかしく ない。 あの金は、どうした、十五円。 子供にどうなる金じゃない、どっか ら盗んできた。 どうして、がま口見たんだ、親に貧乏はさせたくない。 小 遣いをやろうと、思って。 盗ったんじゃない、鼠の懸賞でもらったんだ。 ペ ストの流行で、鼠を捕って交番に持って行った懸賞で、二十円当った。 預か ってくれていた旦那様が今日の「宿入」で、五円はみんなに分けてやった。 十 五円は、お父っつあん、おっ母さんも大変だろうからと、旦那様が渡してくれ たんだ。 そうか、お父っつあんには万事わかっていた、お天道様はお見通し だ、これからも旦那様を大切にしろよ、これもみんなチュウ(忠)のおかげだ。