小満んの「雁風呂」前半2015/03/13 06:51

 私のところは「雁風呂」という噺で、温まっていただきたい。 <秋の雁春 には燕(ツバメ)て帰るなり> ツバメては、江戸言葉でまとめること、春の 借りを秋にまとめて返すことを言っている。 江戸時代まで、雁は大挙してや ってきた、シベリアから越冬に来る。 カギになり、サオになって帰り、うる さい、おしゃべりをする。 <かしましや江戸見た雁の帰り様(よう)> 一 茶が板橋で詠んだ句だ。 <ふくんだ木落とした雁の初音かな> ご退屈でし ょう、ずっとこんな感じの噺で…。

 名前を残した豪商に、銭屋五兵衛、紀伊国屋文左衛門、大坂に淀屋辰五郎が いた。 初代の岡本常安(じょうあん)は中之島を開拓したので、淀屋橋と名 付けた橋が残る。 二代目は加賀を始めとする諸大名の年貢米を扱い、巨万の 富を築いた。 銀の蔵が七つ、普通の蔵がいろは四十八蔵あった。 五代目辰 五郎の時、大名、幕府が難癖をつけ、家は財産没収の闕所(けっしょ)、三カ国 おかまい(江戸、京、大坂から追放)の処分を受けた。

 水戸光圀、黄門様一行が、遠州掛川の宿に掛った。 老夫婦二人だけの立て 場で休んでいると、むさい臭いがしてきた。 庭に片庇の小屋があり、肥樽が あった。 屏風を立て回してもらい、持ち合わせの香を焚く。 けっこうな屏 風だ、土佐将監と見たが…、光信としてある。 さすが名人、松の枝に雁がね、 翼を連ねて、生きているようだ。 だが、絵には出合いというものがある、松 には鶴か日の出、雁には月か葦だろう。 この絵にふさわしき故事などあれば 知りたいものだ。

 大坂風の町人二人連れ。 旦那、休んでいきましょう。 喜助、めしを三人 前、一本は荷物さんに。 遠州掛川まで来たが、胸に一物ある、江戸でどうな るか。 七転び八起きと申します、人間いい事もありますよ。 人間、落ち目 になると、くたびれの抜けるものがほしい。 ええ屏風があるな。 「雁風呂」 でっしゃろ。 将監の本ま物だ、マナコ鋭うして、一気呵成に描いた、落雁や、 春の雁や、よう肥えておる。 だが評判が悪い、将監も気の毒だ、お侍でも知 らないのがおる、武士といってもカツオブシのようなものだ。

 一同の者、今の話を聞いたか、どうも節穴が揃うていたようだ。 ここへ上 げて、絵解きをしてもらおう。 余は隠居だ、聞くは一時の恥だ。 それにお る町人、絵解きをしてもらいたい、主人がぜひにと申しておる。 教えてやん なはれ。