師匠・馬生の「ざる屋」2015/03/31 06:33

 金原亭馬玉真打昇進襲名披露の鈴本演芸場、27日夜席だが、5時20分に翁 家小楽、和助の太神楽曲芸で始まった。 和助は、例の新年会に、馬玉になっ た馬吉とセットで来てもらった。  まず、馬玉の師匠・馬生の落語「ざる屋」。 落語研究会では聴かない噺なの で、書いておく。 「する」は使わず、目出度く「あたる」と言う、「擂鉢」は 「当り鉢」、「剃刀」は「当り金」、飲み屋では「するめ」を「当りめ」。 だが 「スリッパ」を「当りっぱ」とは言わない。

 忙しそうな人を選んで、引き留めて、道を聞く。 着物をひっぱるな、観念 したから。 あんた、何で急いでいるの? かみさんが、か(齧)ぶってきた、 産まれそうなんだ。 ざる屋の吉兵衛さんの所は、どこで? 知らないよ。 ど うぞ、あちらへ。 引き留めて聞いたんだ、どうもありがとうぐらい、言え。  どういたしまして。

 夢中で走って行く人がいる、あの人に聞こう。 ひっぱるの、およしなさい、 今、私に聞いたばかり。 同じ人か、この店の人に聞こう。 ざる屋の吉兵衛 さんの所は? 手前で。 何軒? 私が吉兵衛。 なるほど、吉右衛門という 顔じゃない。 何の用で? 言わない、手紙がある。 そこへ掛けなさい。 掛 けない、尻にデキ物がある。 お茶をどうぞ。 お茶は飲まない。 何のおも てなしも出来ない。 じゃあ、天丼を三つ。 十五年勤めた売り子が辞めたん で、口入屋に頼んでおいたんだが、お前さんかい。

 着替えの、腹掛け、半纏は? 持ってきてない。 赤い紐で、たすき十字に して、尻をはしょって。 はしょれない、フンドシ締めてない。 ちょいと、 はしょればいい。 はしょりすぎだ、お前さん、ずいぶん長いね。 紐で結わ えて、首から下げましょうか。

 さっそく、売りに行ってくれ、大きいのが五十銭、小さいのが三十銭だ。 三 十銭は高い、二十銭にまからないか。 ウチの者に値切られるとは思わなかっ た、だめだ、手間の物だ。 売り声は「ざる屋、味噌漉し!」でなく、爺さん の頃から「コメが上がる、コメ上げざる!」だ。 「コメが上がる、コメ上げ ざる!」 店の前でやっても、しょうがない。 離れてやってくれ。

 「コメが上がる、コメ上げざる!」 番頭さん、前にいいざる屋さんが来た、 私は株をやっているんだ、呼んでくれ。 旦那が気に入った、間違っても「下 がる」とは言わないように。 酒の一杯もごちそうしよう。 ざる屋さん、今、 どうした? 暖簾を、跳ね上げました。 荷は、上げさせて頂きます。 いい ね、ほんの少しだけど、ご祝儀をあげよう。 天にも昇る心持ちで。 お宅は どこ? 上野で。 私の嫌いな下谷と言わないところがいい。 上野はどのへ ん? 高台です。 代々かい? 親父は登戸で、お袋は上尾、兄弟は上ばかり 七人。 お名前は? 上田昇。 ご酒は? 大好きで、だんだん昇るはハシゴ 酒。 財布ごと、あげよう。 それでは、芸者を揚げて、幇間を揚げて、どん ちゃん騒ぎ。 芸者が「深川」を歌う。 ♪猪牙で行くのは深川通い サテ 上 がる桟橋 上がる桟橋 アレワイサノサ いそいそと。 金庫ごと、あげよう。  「ざる屋」というお噺で。

小人閑居日記 2015年3月 INDEX2015/03/31 09:39

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