正蔵のマクラ、馬風の雑談 ― 2015/04/01 06:39
馬玉真打昇進襲名披露の鈴本、馬生の次は正蔵が「新聞記事」を演った。 わ しは隠居さんより物知りだという男が隠居に、今朝の新聞にお前の友達の天婦 羅屋の竹の家に、昨夜泥棒が入って竹が殺された記事があったが、知っている か、と一件を聴かされる噺だ。 そのマクラ。 ある師匠、名前は言えない、 日曜の夕方、黄色い着物でテレビに出る人と、ゲリラ豪雨の日、三島へ仕事に 行った。 小田原で新幹線が止まった、電話があって、こちらは大変な雨なの で、今日はお帰りを、という連絡。 だが、その師匠が、どんなに遅れてもい いから行こう、ギャラをもらえなくても行こう、ラーメンをやるから、気持で 行こう、と言うので、なんとか三島まで行った。 駅には、先方の係の人が三 人待っていて、男泣きした。 テレビで見ている限り、もっとチャランポラン な人かと思った、と言う。 2時開演というのに、会場の公民館に着いたら、5 時45分になっていた。 いっぱいの人が残って、待っていた。 今度は、師 匠と私が、泣いた。 皆さん、こんなに長い時間、待っていて下さったんです ね。 いえ、避難所です。
正蔵の後、松旭斎美智、美登のマジックについで、三升家小勝の落語「蔵前 駕籠」があり、落語協会前々会長で最高顧問の鈴々舎馬風がよたよたと登場し た。 かゑるから馬になって40年、何のメリットもなかった、と言う。 柳 家かゑる時代、二葉百合子の歌謡ショーの司会やキックボクシングのリングア ナウンサーをやったり、兄弟子立川談志が司会をしていた笑点に出ていた話を する。 談志が東京八区から選挙に出て、応援に駆り出され、八区を知らない から圏外の荒川区で応援演説をやった。 談志が参議院議員になって、議員会 館へ行くと、受付が連絡する。 「松岡先生、柳家かゑる様、毒蝮三太夫様が 御面会です。」かゑると、蝮だ。 笑点で座布団を運んでいる山田隆夫には、鈴々 舎鈴丸という名前を付けてやったが、ゴルフが上手い、ホールインワンを5回 やって、ゴルフ場に塔婆が立っている。 ゴルフには、笑いが一番、寄せ(寄 席)が大事だ。
現、六代目小さん、尊敬できない。 住込みで修業していた頃、子供で、寝 小便をしないように夜中に起して、小便をさせたから。 こぶ平が、正蔵だか らね、正蔵は大名跡、歌舞伎なら団十郎、菊五郎だよ。 正蔵、三平は、落語 界の鳩山兄弟、楽屋じゃ言えないから、ここで言う。
白鳥の新作、さん喬「時そば」のマクラ ― 2015/04/02 06:34
馬風の雑談のあと、初めて見るホームランの漫才があって、噂は聞いていた が、これも初めて聴く三遊亭白鳥の落語だった。 左右が白と黒の、自称ツー トンカラーの着物、赤い襦袢、ナリからして奇抜だ。 噺家は、お客さんを選 べない、と始める。 富山の看護婦さんの卒業式に呼ばれた。 若い女性ばか りだと、集中力が乱される。 今日は…、集中しやすい。 看護婦さんの話だ と、スケベな患者が多い、特にジジイ。 点滴をするリハビリお爺ちゃんが、 お尻をさわったりする天敵だ。
おバカな看護婦のミドリちゃんは、太っている。 夜勤、夜勤で、先輩、お 休みなさいと、居眠りする。 コーヒーでも淹れなさい。 なに、このコップ、 目盛がついているけど、検尿カップじゃないの。 よく洗いました。 私、ナ イチンゲール章をもらったんです。 これ、バッジじゃない、メンソレータム のフタじゃないの。
ナース・コールよ、2号棟201号室の吉田お爺ちゃん、いつも痛いから肩揉 めとか、爪切れとか言う。 パンツ、見せてくれ。 ドーゾ!(と、めくる) でかい! トマト柄か? イチゴ柄が広がって、そう見える。 バイオケツか、 ファジーだ。 もう、いいですか、3,200円になります。
ミドリちゃん、冷たいおにぎりや、ラザニアを霊安室に隠して、夜中にチー ーンとやる。 婆さんが、大福持ってきた、わしが糖尿病なのに。 下げは、お前、白衣の天使なのか、どうりで、わしを天国に連れて行こうと した。
白鳥のあとは、さん喬の「時そば」。 言葉づかいが変わった。 ファミレス でフリーターのアルバイトが「こちらコーヒーになります」と言う。 成増は、 東武東上線だ。 中学生五、六人が入ってきた。 「禁煙席でよろしかったで しょうか?」 Mの字のハンバーガーショップ、楽屋に差し入れをしようと思 って行く。 30個、20万円ぐらいかな、安いな。 チーズバーガー、30個。 「こちらで、お召し上がりですか?」 マニュアルの恐ろしさだ。
新真打、金原亭馬玉の「転宅」 ― 2015/04/03 06:36
27日の鈴本、仲入後のここで最初に書いた金原亭馬玉の真打昇進襲名披露口 上があり、すず風にゃん子・金魚の漫才があって、落語協会会長柳亭市馬の登 場となった。 市馬は季節の噺「長屋の花見」をやり、つづいて権太楼が「代 書屋」をやって、大受けだった。 ともに、15分ぐらいの高座だったが、流石 脂の乗っている実力をはっきりと示した。 権太楼のマクラは、当日記、昨年 11月30日の「権太楼「錦の袈裟」のマクラ」の後半と同じだった。
林家正楽の紙切り、「春の野原を走っている玉をくわえた若い馬」、客席から お題頂戴の「弁天様」「花見酒」「一年生」があって、いよいよトリの金原亭馬 玉である。 「待ってました」の声に、こんなに待っていただいたのは初めて。 いろいろ考えて、今日は泥棒の噺にした。 落語の泥棒は、間抜けと相場が決 っている。 浅草仁王門の曲者の小咄で、パラパラという拍手ありがとうござ います、親分中の首尾は? シィーッ、鯉が高いの小咄をやって、「転宅」に入 った。
黒板塀のお妾さんの家、五十円渡して、今日は帰りますと旦那、さっきの金 は大事にしなよ、と出るのを女が送る。 あんないい女に、あの爺イ、金の力 だなと、裏から入った。 そのままの食卓の、燗冷ましだけどいい酒だ、赤身 はトロだ、白身はテエだよ、とろろは精がつく、まぐろが入っているよ、ズル ズル。 イモの煮っころがしだ、うめえや。 ちょいと、お前さん、なんなの。 (イモを頬張っていて)ウンウン。 静かにしろ、おら泥棒だ、騒ぐと二尺八 寸の段平物を振り回すぞ。 よーよー、音羽屋。 段平物って、腰に何も差し てないじゃない。 今日は、忘れた。 お前さん、旦那の呼んだ噺家か、幇間 なんだろう、驚いたところへ、カッポレかなんか踊ろうってんだろう、カッポ レを踊れ、このカッポレ泥棒。 ここは野中の一軒家じゃないよ、お前さん、 やりそこなってるよ。 元をただせば、私もコレ(指を曲げる)だよ。 姐さ んも泥棒か、驚かないから、変だと思った。
実は、相談があるんだよ。 旦那は、面白くない人でね、さっき手切れの半 分もらった。 私は世帯を持ちたい、思い描く人はね、男は肚(はら)さえ決 まっていりゃあ、役者みたいないい男じゃなくていい。 そんな男はいるのか? 私の目の前にいるじゃないか。 えッ。 おかみさん、いるんだろうね。 独 り者かい、でも色がほうぼうにいるんだろうね。 色なんていない、無色透明 だ。 一緒に苦労しておくれじゃないかい。 ハイ!
三々九度の真似事だよ。 白魚を五本ならべたようなきれいな指だな、姐さ ん名前は何てんだ? 俺、親分は鼠小僧泥之介、一の子分で、イタチ小僧の最 後兵衛。 高橋お伝を知ってるかい。 お伝は、私のお祖母ちゃん。 高橋お 伝の孫、名門の出なんだねえ。 名前は半ぺん、本当は菊っていうの。 お菊 さん。 呼び捨てにしておくれ。 いくぜ、おい、お菊。 何だい、お前さん。 今晩、泊っていくよ。 だめだよ、二階に柔の先生と、剣術の先生が、用心棒 でいるんだ、今、風呂に行っている。 明日の昼過ぎに、合図の三味線を弾く から。 お小遣い、持ってるかい、いい財布ね、こんなに持ってるの、どこで やったの。 このお札は、こっちで預かっておく。 浮気なんかしちゃあ、い やだよ。 女猫一匹、膝の上に乗せないよ。 本当かい、嘘つきは泥棒の始ま りっていうよ、もう泥棒か。
明くる日、早く出て、行く。 あの女、27、8、いや32、3、ちょいと化粧 が濃かったな37、8、着物が地味だったから42、3、暗がりで52、3かも…、 でも、あんないい女なんだから、年なんか関係ない。 もうお天道様も高くな った、あそこに煙草屋がある。 前のお菊の家、閉っているけど。 お菊とい うところをみると、お菊さんの身寄りの方で? まあ、そんなところだ。 ゆ うべのあの話を、ご存知ない? 婆さん、お茶を淹れて、初めから話して、笑 い合おう。 これこれこういう訳で…、間抜けな泥棒で、夫婦約束をしたって んですよ、そんなバカなことが世の中にあるわけはない。 お菊さん、早速の 機転で、二階に柔の先生と、剣術の先生が、用心棒でいるって言ったそうで、 前の家をごらんなさい、平屋ですよ、二階なんてありませんよ。 昼過ぎ時分 に、その馬鹿が来るってんで、ここら中の節穴っていう節穴、目で埋まってい ます。 ゲジゲジ眉で、ヒゲ面の男だそうで、来たら、指差して、笑ってやり ましょう。 それで、お菊はどうした? ゆんべの内に、お店から若い衆が来 て、越しました。 はい、元は義太夫の師匠だったそうで…。 道理で、うま く語りやがった。
幕が下りると、幕の内から賑やかな三本締めが聞こえた。
「スマホを止めて、本を読もう」の反響から ― 2015/04/04 06:29
3月25日の「等々力短信」第1069号「スマホを止めて、本を読もう」に、 いろいろな反響があった。 同感だという意見が多かった。 そのいくつかを 紹介したい。
KYさん。 「あるファミレスに親子4人が食事に来て、来るなり全員スマ ホに夢中になる。食べながら誰も口をきくことなく黙々とスマホをいじる。「じ ゃ帰ろう」「うん」という言葉だけがその場の「会話」だった。このままでよい のだろうか?」
NIさん。 「小型の笏とは! 洗脳用と見れば、あなおそろし。大枚払って 10時間以上笏と話し、我を失っていく…。まったくおそろしい。」
TOさん。 「電車の中だけでなく、信号を渡っている時も、スマホを見て いる人がいます。とても、ついてはいけません。」
KNさん。 「スマートホン使用中は、脳はほとんど動いていないでしょう。 これからの日本人の一層の劣化が心配です。」
MOさん。 「私は電車ばかり利用しますが、桜が咲いても、若葉が輝いて も、窓外の景色などおかまいなしに、それこそ笏を見つづける姿に、昔の中国 のアヘン中毒を連想してしまいます。」
MTさん。 「桜の開花の便りも聞かれ、早いもので弥生も終わろうとして ます。月日のたつのはアッという間、スマホを相手にしてる場合ではないので すが、歳を取らなきゃわからないのでしょうね。」
MFさん。 「スマホの広がりはほんとうに驚きです。ただ、テレビの時、 パソコンの時も多くの人が心配しましたが、日本人の智恵が乗り越えて来まし た。これに期待する他はありません。」「爺になりますと、読む本の90%は文庫 本。寝ころがって読めますし、持ち歩きはこれに限ります。喫茶店でコーヒー を飲みながら、文庫本を手に持って、外の景色を何となく眺める。至福の時で す。文庫本以外は図書館で借りたもの(今は米朝です)。」
YIさん。 「今頃、2014年2月25日号の 『脊梁山脈』を読み始めまし た。短信に1年以上遅れていますが、とても楽しいです。」
「本を読もう」、『暮しの手帖』春号から ― 2015/04/05 07:28
『暮しの手帖』の最新75号(4-5月号)、この号で「今日もていねいに」の 松浦弥太郎編集長は交代だそうだが、パラパラやっていて、「等々力短信」第 1069号「スマホを止めて、本を読もう」に通じる記事があったので、書いてお く。
一つは、「すてきなあなたに」の中の「本棚を作る」。 新しい本棚を作った ひとが、その理由をこう説明したというのである。 「自分を作ったものを一 度きちんと整理しようと思って」。
もう一つは、佐藤雅彦さんの「考えの整とん」、ちょうど第50回で、題は「た しかに……」。 午後2時頃の有楽町線の車内、ランドセルを背負ったままの 小さな小学生が、一心不乱に本を読んでいた。 半ズボン姿の男の子、小学校 の2年生くらいであろうか、図書館のシールが貼ってあるハードカバーに顔を 埋めている。 他の乗客のほとんどがスマートフォンに指を置き、小刻みに滑 らせているのに対して、なぜか、その姿は好感が持てた。
何を読んでいるのだろうという好奇心がむくむくと湧いたが、隣に座ってい たので、残念ながら角度的に表紙のタイトルを読むのは無理であった。 2、3 駅が過ぎた頃、男の子はあるページのある行で目を止め、ぴたりと動かなくな った。 じっと同じ行を読み返していたが、突然、ページを今まで読んでいた 方に向かって、勢いよく逆にめくりだした。 時々、手を止め拾い読みしたか と思うと、また勢いよくめくりだす。 何かを探しているのだ。 そして、遂 に、ある箇所を探り当てると、じいっと読み出した。 緊迫が隣の佐藤さんに も伝わってきた。 そして、それまで何も発していなかったその小学生が一言 つぶやいた。 「たしかに……」。 佐藤さんは、吹き出しそうになった。
佐藤さんは、ますます、その本のタイトルが知りたくなった。 大人気ない が、その本を読んで、その箇所で「たしかに……」ってなりたくなった。 男 の子が降りるとき、一瞬、タイトルの一部が見えた。 「ドリトル先生なんと かかんとか」。
事務所の近くの図書館で、探した。 『ドリトル先生』全12巻、拾い読み では、「たしかに……」は手に入りそうもない。 そして佐藤さんは、まず、自 分の態度に「たしかに……」を享受する資格がないことを思い知らされた。 そ れは熱中の賜物だったのである。 それだけを見つけて楽しもうなんて虫のい い話である。 佐藤さんは、あの小学生に軽い嫉妬、羨ましい気持を抱いた。
あの日、佐藤さんは、地下鉄に乗ると、移動時間を有効に使おうと、手帳を 開いて予定を確認し、コンピュータを開いて、来ているメールを確かめるつも りだった。 そんな時、あの言葉が聞こえてきた。 「たしかに……」 隣に熱中がいたのである。 その小さな熱中は、流れゆく時間も、存在して いる空間もなく、ただただ熱中していた。 時間は誰に対しても平等に過ぎて はいなかったのである。
最近のコメント