平成27年大相撲夏場所の五日間2015/06/01 06:25

 朝日新聞が誤報の出直し的反省以後、連日のように[訂正して、おわびしま す]というのを掲載している。 十日分の新聞をひっくり返していたら、5月 21日付スポーツ面、大相撲夏場所11日目の見出しは、「照ノ富士 大関消えた /合宿地獄で成長 次こそは」だった。 リード文には「1敗の白鵬は先場所敗 れた照ノ富士に雪辱し、50場所連続となる2桁白星を挙げた。照ノ富士は3 敗となり、場所後の大関昇進が絶望になった。」 これは、[訂正して、おわび します]ではないのか。 というのは結果論で、冗談だが…。

 22日付12日目の見出し。 「豪栄道捨て身 白鵬に土/大関の意地見せた首 投げ」。 2敗…白鵬、魁聖。 3敗…稀勢の里、照ノ富士、高安、勢、隠岐の 海、嘉風。

23日付13日目の見出し。 「白鵬ついに単独首位 35度目Vへ混戦脱出」。  2敗…白鵬。 3敗…照ノ富士、勢、魁聖。

24日付14日目の見出し。 「3敗並び千秋楽/照ノ富士 威風堂々/白鵬 ま たも土 稀勢、強烈突き落とし」。 3敗…白鵬、照ノ富士。 4敗…日馬富士、 稀勢の里、高安、勢、魁聖、嘉風。

25日付千秋楽の見出し。 「照ノ富士 成長のV/重圧なんの 休まず攻めた」 「白鵬ぶぜん」。 リード文は「三役2場所目の23歳、照ノ富士が二つの栄誉 を手に入れた。碧山を下して3敗を守り、優勝争いで並んでいた白鵬が結びの 一番で破れて初優勝が決まった。場所後の大関昇進も確実となった。白鵬に勝 った日馬富士と稀勢の里が11勝。栃煌山と逸ノ城は勝ち越しを決め、三役の 座を守った。」 白鵬は11勝4敗。 横綱・鶴竜は全休。 大関・琴奨菊は6 勝9敗、豪栄道は8勝6敗1休(12日目の白鵬戦で左肩を強打、14日目から 休場)。 関脇・妙義龍は7勝8敗。 10勝5敗は、高安、勢、魁聖、嘉風。

この見出しを並べてみて、ナポレオンがエルバ島を脱出してから、皇帝に復 位するまでの新聞記事の変化の話を思い出した。 1815年の「モニトゥール」 紙。 (5月9日)“悪魔”が流刑地を脱出した。 (5月10日)コルシカ生 まれの“人喰い鬼”はジュアン岬に上陸。 (5月12日)“悪魔”はグルノー ブルに進出。 (5月13日)“僭主”は今リヨンに居る。 (5月19日)“ボ ナパルト”は軍を率い前進。 (5月20日)“ナポレオン”は明日パリ城壁に。  (5月21日)“皇帝ナポレオン”は今フォンテンブローにいる。 (5月22 日)“皇帝陛下”は昨夕、チュイルリー宮殿に到着あそばされた。

実は2009年1月23日の当日記「勝てば、朝青龍!」に、上のナポレオンと 新聞の話をして、こう書いていた。 発想に進歩がない。  もし私が朝青龍の67歳のスピーチライターなら、千秋楽の優勝インタビュ ー用に「勝てば、朝青龍! ごっつぁんです」と、書く。  朝日新聞の朝青龍報道を見てみることにした。 (1/12付・初日)崖っぷち 朝青龍、まずは白星発進。朝青龍辛勝、ヒデ(中田英寿)には笑顔。 (1/13 二日目)朝青龍が2連勝。朝青龍まだ不機嫌。 (1/14三日目)朝青龍が雅山 に辛勝し(記事) (1/15四日目)迷える日馬4連敗、朝青「オレより心配」  (1/16五日目)両横綱、土つかず。 (1/17六日目)日馬富士、朝青龍、白鵬 とも白星。 (1/18七日目)にらむ朝青龍、強さも素行も「らしさ」戻る。 (1/19 八日目)朝青、一気の全勝。安美錦ねじ伏せる。 (1/20九日目)朝青、日馬 を圧倒、口も滑らか。 (1/21十日目)朝青龍全勝、単独トップ。初場所、朝 青龍さまさま 沸く国技館、視聴率もアップ。 (1/22十一日目)朝青龍、琴 欧洲圧倒し全勝。 (1/23十二日目)横綱 動と静、朝青 圧勝、白鵬不戦勝。

桂宮治の「反対俥」2015/06/02 06:36

 5月29日は、第563回の落語研究会だった。 半蔵門の駅を出ると、小雨 が降っていた。 きんつばの一元屋に寄って、いつもの天婦羅屋へ行く。

「反対俥」    桂 宮治

「紋三郎稲荷」  三遊亭 司

「三枚起請」   古今亭 志ん輔

      仲入

「稲川」     三遊亭 歌武蔵

「へっつい幽霊」 柳家 権太楼

 桂宮治がニコヤカに走って登場すると、「戸越銀座!」と声がかかった。 9 割9分が落語協会贔屓の落語研究会で、落語芸術協会の二ッ目の住んでいる所 を知っている方がいるのは有難い、20分だけの我慢を、と。 パソコンのユー チューブで見た桂枝雀で落語の面白さを知り、結婚式の当日に入門したそうだ。

先日、落語研究会よりも素敵な所で噺をした。 三軒茶屋から行く昭和女子 大学、その昭和女子大学のキャンパスに人見記念講堂という2000人は入ると ころに1900人ぐらいの女子大生がいるんだから、天国のよう。 レポートを 出せば、単位になるてんで、集中して聴いている。 お花畑のような18から 20そこそこの女子大生が、袖口をポンポンとやると、柔軟剤の中に入っている フレグランスが、いっぱいに満ちて、漂って来る。 今日は、お線香の匂いが する。

 明治大正の乗り物に、人力車があった。 人の足、街の足。 上野から汽車 に乗る男、車屋に声をかける。 何です。 客だ、上野までやってくれ。 ハ フ、ハフ、ゲッ(吐きそうになる)。 大丈夫か。 今日は一番体調がいい。 な んだ、車もボロボロだな。 勢いよく乗らないで下さい、バラバラになる。 お 尻のところにバネが出てますから、気を付けて。 英語で、スプリング・ハズ・ カム。 ハフッ、ハフッ、無理だよ。 今、何か言ったか、梶棒が上らないの か。 重心を後ろに行くようにして下さい。 (客がそうすると、引っくり返 りそうになる。) 行きますよ! 行きますよ!(右、左と、向きを変えるが、 進まない。) 花魁道中か? よじれるよ。 だめだな、こりゃ。 昨日まで入 院してたんで、銭がなくなった、今日4時から手術の予定で、ハフッ、ハフッ。  あっ、口から赤いものが出た。 さっき飲んだ、トマトジュース。 上野まで どのくらいかかる。 二日。 降りるよ、何、手を出して? まだ、動いてな い。 いいよ、病院代じゃなくて、お経を上げてもらいな。

 つぎに乗ったのが、威勢のいい車屋。 一瀉千里虎の子はがし(?)、ソラソ レー、ソラソレー、音速の貴公子。 今、どうした? ドラム缶を飛び越えた。  落語研究会の客は笑わないから、もう一度、飛ぶか。 目の前に、土手がある ぞ。 ドーーン。 山と緑だ、ここはどこだ? 福島県の郡山。 以前、法事 で来たことがある。 上野の駅までと頼んだはずだと、またソラソレー、ソラ ソレー、と走る。 上野です。 間に合ったよ、ハイ車賃。 これから、どち らへ? 今から急いで、福島県の郡山まで行かなきゃあいけない。

 桂宮治は、脱いだ羽織で床の汗を拭く熱演だったが、からまわりして、枝雀 のように爆笑とはいかなかった。

三遊亭司の「紋三郎稲荷」2015/06/03 06:31

 白い羽織と着物で、自分も意識しているのか、役者を気取って出てきた。 噺 家になって15年になるという。 大師匠の圓歌は70年、日蓮宗の御上人だ。  若い女性が、パワースポットだといって、神社仏閣へ行く。 パワースポット なら楽屋にもあり、新宿末広だと柱の所は幹部の席で、出世、早死の席もある。  神仏に願掛けをして断ち物をする、酒断ち、塩断ち。 徳島の鯖大師に願掛け をして、三年鯖断ちをする。 志ん朝師匠は、鰻断ちをしていた。 鰻断ちな んていうと、生意気に聞こえる。 名人志ん朝だから言えた。 私なんぞ、願 掛けしなくても、二年間鰻断ちしている。 なぜ鰻断ちか、志ん朝師匠の守り 本尊が虚空蔵菩薩で、そのお使姫が鰻だから。 三峯神社は狼で、お犬様。 弁 天様には卵を供えるが、お使姫が白い蛇で、卵を呑む。 お稲荷さんは狐で、 油揚げを供える。

 茨城(常陸)の笠間にある笠間稲荷は、紋三郎稲荷ともいう。 山崎兵馬と いう侍が風邪を引いたので、割り羽織に狐の胴服のシッポもついているのを着 込んで、駕籠に乗る。 駕籠屋、松戸までいくらだ。 八百で。 酒手込みで、 一貫文つかわす。 乗り込んで、あぐらをかく。 ヘイホッ、ヘイホッ、兵馬 は病み上がりで、ウトウトする。 相棒、おかしいぞ、妙なもん乗っけたんじ ゃないか、お稲荷様でも乗っけたんじゃないか。 立派なお武家様じゃあねえ か。 ブラブラ出てるんだ、ふさふさしたのが…。 兵馬は、それを聞き、胴 服のシッポを長く出して、ゆさゆさ揺する。 これ駕籠屋、今、どのあたりか。  牧の原で。 ワシは笠間から参った。 では、牧野様のご家中で。 家中では ない、これから江戸に参る。 江戸は、どちらで。 王子だ。 エッ、それで は旦那様は、ことによると紋三郎様の、ご、ご眷族の方でいらっしゃいますか。  犬が苦手でな。 先の立て場には大きな犬がおります。 その次の立て場まで やれ。 着くと、兵馬は牡丹餅や団子はやらず、稲荷寿司ばかりパクリパクリ。  そのほう達も牡丹餅はどうだ。 けっこうです、馬の糞になったらいけません で。

 そろそろ松戸ですが、旅籠はどちらで。 どこか、よい宿はあるか。 本陣 の旦那が紋三郎稲荷がご信心で、高橋清左衛門。 一貫文、たんと頂戴して、 本物でしょうな。 拙者は野狐ではない、正真正銘、天下の通用だ。 駕籠屋 は、旦那に通してくれ、お耳に入れたいことがある。 これこれ、こういう訳 で、と煙草代をもらう。

 高橋清左衛門、黒紋付羽織袴で挨拶に出て、手を叩って拝む。 庭に祀った 祠には二匹のお狐さまもおりまして。 駕籠屋が余計なことを言ったな、道中 の座興だ。 何を聞いても、コンコン。 おこわ、油揚げは初心の者の好むも のだ、ナマズ鍋、鰻、泥鰌、鯉こくなどがよい、お神酒もだ。 この間酒の席 で、豊川と王子が喧嘩してな、伏見と私で止めに入った。 大御馳走を食べて いると、座敷の外がザワザワしてくる。 近郷近在の者たちが、拝みたいと申 しておりますが。 隣から拝むのを許す、お賽銭は構わぬ。 兵馬、拾っては、 袂に入れる。 明日は、早立ちする。 一人でそーーっと立つ、見送りはしな いように、覗くと目がくらむ。

 夜の明けぬ内に旅仕度をして、庭先に下り、切り戸を開けて逃げ出した。 庭 の祠の二匹の小さな狐が、ハァ、人間は化かすのが、うめーや。

 三遊亭司、あまり感心しなかったのは、実力不相応の気取った形に抵抗があ るのか、噺そのもののせいなのか。

志ん輔の「三枚起請」前半2015/06/04 06:31

 お客さんに、よく言われる。 噺家は口が上手いから、もてるんでしょうね、 と。 女のひとと二人になると、オドオドする。 そんなことは、たまーーに だから、オドオドする。 志ん朝と小せんが、愚痴を言っていた。 お客さん に、だまされた。 小せんが、浅草演芸ホールを出ると、めし一緒に食べよう か、って言われた。 牛(ぎゅう)なんかどうか。 いいですね。 吉野家だ った。 その話を聞いていた志ん朝が楽屋を出ると、お食事でも一緒にいかが、 と来た。 同じ人かと思って、何を食べたいんです? 牛なんか、どう。 牛 といっても、いろんな形がある。 銀座のステーキかなんか。 それで、割り 勘という怖い目に合った。 お客さんの方が、口が上手い。

 女を口説く。 腹の底を確かめたい。 心変わりが恐い。 気持を形に残そ うということになる。 お湯に行くと、二の腕に「○○命」と彫り物があるお っさんがいる。 聞けば、その人とはうまくいかなかった、と。 ジンクスが ある。 明治大正まで、廓には起請文というものがあった。 サッカーのエン ブレムになっている熊野権現の八咫烏の誓紙に書く。 約束を破ると、熊野権 現のカラスが三羽死ぬ。 高杉晋作が十八の時につくった都々逸、「三千世界の カラスを殺し、主と朝寝がしてみたい」。

 猪之さん、座っていきなよ。 棟梁、なーーに? お袋が泣いてたよ。 年 増を泣かせたか。 夜遊び、日遊びだって、いうじゃねえか。 昼は家にいる よ、夜は帰って来ない。 博打やめなよ。 近頃、女と色っぽいことになって んだ。 女か、シロかクロか。 ブチかな、吉原の女。 まっクロけのけ、じ ゃないか、その女、お前にトンと来てるのか。 トントンと来やがるんだ、ブ ルブルっとした時、上げてやると引っ掛かるんだ。 ハゼだね。 大事にしよ うって、昼間はブラブラしてる、「来年の三月、年期(ねん)が明けたら、お前 の所にきっと行きます」と、いうことになっているんだ。 「きっと行きます、 断わりに」じゃねえのか。 ちゃんと起請をもらってる。 見せろよ。

 書いたね、なになに「一つ起請文のこと」か、「私こと来年三月年期が明け候 えば、あなた様と夫婦になること実証也。吉原江戸町二丁目朝日楼うち、喜瀬 川こと中山みつ」。 これ本当に貰ったんか、拾ったんだろ。 この女、品川に いて、去年吉原(なか)に住み替えをした、歳は二十で、色の白い、目の下に ホクロが二つある。 もう一枚、やろうか、俺も、持ってるんだ。 ホッ、ホ ッ、俺は、この女が品川にいる頃から馴染で、俺がこの年まで独身(ひとり) でいるのは、この起請を持ってるからだ。 アッ、おしゃべりの清公が来た。

 何の話をしてるんだ。 猪之公が、だまされた。 こんな起請をもらってい た、俺もだが…。 「一つ起請文のこと。私こと来年三月年期が明け候えば、 あなた様と夫婦になること実証也。吉原江戸町二丁目朝日楼うち、喜瀬川こと 中山みつ」。 この女は、品川から去年吉原に住み替えた、二十で色の白い、目 の下にホクロが二つある女じゃないか。 もう一枚、出るぞ。

志ん輔の「三枚起請」後半2015/06/05 06:33

 ちくしょう、勘弁できない。 清さん、どうするんだ、台所から出刃なんか 持ち出して。 出刃じゃない、大根おろしだ。 どうする。 癪にさわるから、 あいつの鼻の頭、ひっこすってやる。 俺は、貰い方が違うんだ。 去年の夏、 女がね、この人は容子がいい、私は見る目だけは確かなんて言うんで、馴染に なった。 秋、暮まで二十円用立ててくれないか、と言われた。 五円の金も ありゃあしない、日本橋に奉公している妹の所へ行き、お袋が具合が悪いと言 って、着物の風呂敷包みを質屋に持って行った。 六円、あと十円足りない、 ご主人に話して二十円つくってもらった。 あの女が首っ玉に抱きつきながら、 書いてくれた起請文だ、妹が不憫でならねえ。 チ、チ、チン。

 今夜、三人で行こうじゃないか。 ねじ込んでも、笑われるのが関の山だ。  談判に行き、起請を三枚出して、女に恥をかかせてやろう。 四匹の犬が行く けれど、一番前にいる犬は、女犬だろう。 あの男犬三匹も、起請をもらって んのかね。

 いらっしゃい、棟梁、お見限りね。 がまんできないんだ、あの女。 お前 さん、ちゃんと堅いものもらってるんだろ。 堅くない、柔かいんだ、グニャ グニャになっちゃったんだ。 だまされ連中が、やって参りました。

 乙な家だね。 もと出てた女、芸者、ぴか一だった。 俺、喜瀬川いいや、 ここに養子に入る。 で、どうするの。 俺、一人ということにして、あいつ を呼んでくれ。 猪之さんは押入れに、清さんは衝立の陰に。

 まあ、棟梁、ちっとも来ないのねえ、来年三月まで、まだ間があるじゃない か。 煙草でもお吸いよ、煙管貸しておくれ。 掃除をしないのかい、煙管通 すものないかい。 あったよ、これで。 反古っ紙かい、ちったあ考えてくれ るようになったんだね。 何よ、これ、起請じゃないか。 起請……、チラシ かと思ったよ。 女が出来たんだよ、考えたね。 お前はよく涙が出るな、お い、俺のほかに起請をやってる者があるだろう。 冗談言っちゃあいけない、 起請というものは一枚のもんだよ。

 そうかい、じゃあ聞くけど、唐物屋の若旦那の、猪之さんてえのが来るだろ う。 あんなの子供だよ、色の白いぶくぶくした、水瓶に落ちたおまんまっ粒 みたいな奴だよ。 あんな奴に起請なんか、やるわけない。 おいッ、水瓶に 落ちたおまんまっ粒、出て来い。 あら、ちょいと、そこにいたの。

 まだ、あるんだ、経師屋の清さんにも、起請をやったろ。 あぁ、清公、気 障でイヤな奴、背がひょろひょろと高い、日陰の桃の木みたいな奴さ、起請な んか、やるもんか。 おいッ、日陰の桃の木、出て来い。 あっ、いたの、お 前さん、苦み走って、本当に容子がいい。 何、言ってやがんでえ、勘弁でき ねえ。

 三人いるのかい、どうするの、お前さんたち、私をぶつのかい、おぶちよ。  けどね、これ私の体じゃないよ、お金がかかっているんだ、身請けをしてから、 ぶちやがれ。 身請けなんかできるか。 じゃあ、どうして拳固なんか、つく っているんだい。 これぐらいの八つ頭は、一体、いくらぐらいするだろう、 と思ってな。 ざまあみやがれ。 おう、おう、喜瀬川、女郎は客をだますの が商売だがな、だまし方が癪にさわるんだ。 「いやで起請を書く時は、熊野 でカラスが三羽死ぬ」というだろう、罪なことすんない。 ああ、そう、三羽 死ぬの、冗談いっちゃあいけないよ、あたしはね、もういやな起請をどっさり 書いてね、世界中のカラスを、みな殺しにしたいのさ。 カラスを、みな殺し にして、どうするんだい。 朝寝がしたいんだよ。