兼好「親子酒」の本篇2015/11/21 06:32

 酒好きの大旦那と若旦那、親子で禁酒の約束をした。 三日目ぐらいで親父、 おばあさん、あれだね、夜冷えて眠れない、寝る前に身体を暖っためて寝たい ね。 湯たんぽ、入れますか。 表からじゃなくて、中から暖っためるもの。  オジヤ。 腹が張らない、あれ。 葛根湯。 いじわるを言うな。 駄目です、 倅の好太郎と約束したじゃありませんか。 あいつは若い、ほうぼうに遊びが ある、わしはこれだけだ。 あいつは今日、お得意様回りをしているから、飲 んで寝ちゃえばいい。 そっぽを向くな。 おばあさん、ウナジがきれいなん だねえ。

 一杯だけですよ。 湯呑がいい。 好太郎にバレないように…、キュキュキ ューーーキュ、ポン(と、舌を鳴らす)。 三日ぶりだと、どこにも当たらない ね、スーーーッと入って、味も何もわからなかった、もう一杯。 これで、お しまいですよ。 アーーッ、驚いた、キュキュキューッ、ポン。 うまいね、 これ、いつもの酒でしょ、変えてないよね。 上等の酒みたいだ、三日おきに 飲むことにするか。 駆け付け三杯っていうだろ、これでおしまい。 湯呑だ と、うまいね。 久し振りだと、酔うね。 誰が考えたんだか、酒っていうも のを、偉いね。 誰が止めるもんか、フーーーーッ(と、残りをたらした手の ひらまでなめる)。 もう一杯、なんか言いません、半分、もう半分。 もう半 分、もう半分、もう半分………、持って来い! 何だ、お前の注ぎ方は、ケツ を回すんだ。 お前のケツじゃない。 佐藤さんが、顎(あご)を回すと、色 気が出るって言っていた、こうやるんだ。

 倅が戻って来ました。 大丈夫だ、シャキッとしているから、昨日今日の酔 っ払いじゃない。 (両手を目いっぱい大きく広げて)お父さん、只今帰りま した。 お前はお得意様に行ったんだろう。 川口の旦那が、一杯飲めとおっ しゃったんです。 今日は飲めません、親父と禁酒の約束をした、と申し上げ ると、川口さん、付き合いが長いからわかる、今頃お前の親父も飲んでいるよ って。 それでもお断りをすると、どうしても飲まないなら、今後一切出入り 止めだ、と。 男と男の約束です、絶対に飲みません。 偉い! 親父との約 束を守って、得意先を棒にふってもかまわない、そんな倅がまだいたのか、マ ァ一杯飲め。 それで川口の旦那と二人で、二升五ン合飲みました。

 この馬鹿野郎! あんなに約束をしたのに、なぜ、飲んで来るんだ。 そん なに飲むもんだから、見ろ、お前の顔なんか、七つも八つにも見えらあ、そん な化け物みたいな奴に、この身代を継がせるわけにはいかねえ。 ふん、私だ って、こんなグルグル回るような家をもらっても、しょうがない。

 三遊亭兼好、二席とも、つぎつぎに繰り出すマクラの小咄が秀逸な上、「親子 酒」では主催者の顔を立て「川口さん」を得意先の旦那にする心配り、サービ ス満点の、とてもよい出来の高座だった。