志ん輔の「富久」前半2015/12/03 06:31

 お酒を飲みに行くところは、年齢で違う。 近頃は、カフェバーなんていう 小洒落たところは行かない。 居酒屋、いいですね、品のいい王子赤羽界隈。  下品極まりない、王子のとある店、生ホッピーがあって、鯉昇さんが毎日いる。  恐ろしいことに、氷が入っていない、焼酎半分入れて割る。 口当たりがいい、 キューーッといっちゃう。 それがグラスじゃなくて、ジョッキ。 それを四 軒目のはしご、はん治さんと上野の呉服屋小池屋と一緒、はん治さんは踊りな がら、どっかへ行っちゃった。 牛歩と同じになって、小池屋に新宿まで連れ て来てもらった。 自分の体ならまだいいが、他人に危害を加えるようになる と困る。

 久さん、仕事休んでるんかい。 仕事したくても、お前はいらないよってな る。 しくじったな、酒か。 浅草三軒町、町内からいなくなるの、初めて。  座敷で立ち上がったところまでは、覚えている。 旦那衆の頭を、ボンボンボ ンと、やったらしい。 六さんは? 楽隠居ってのは、楽じゃない、千両富を 売ってるんだ。 買おうかな。 止めなよ。 一俵の米、一粒つまむようなも のだ。 運勢選びに一枚買います。 鶴の千五百番。 幾ら? 一分。 古川 に水絶えず、ってね、一分、一分、一分、と…(一分を探して)。 襟に縫い付 けてある、親とも、兄弟とも頼む一分、渡しづらい。 当たったら、百両のご 祝儀させて下さい。 そんなの、いいよ。

 大神宮様、幇間の久蔵です、見てるでしょう、人の料簡見抜くのが商売、当 たったら金無垢の鳥居を奉納します。 と、お宮の中に籤を入れ、お神酒を下 ろしてチビリチビリやって、寝てしまう。

 寝入った頃に、ジャンジャンと半鐘。 風がいい、西北、燃えるよ、行かね えか、肩貸せ。 火事はどっちだ。 寒いな、目が明かない。 見えた、芝見 当、久保町あたりだ。 どうする。 浅草だよ、行って火が消えていたら、目 も当てられない。 奥の久蔵さん、久保町の旦那って、いつも言ってるよ。 久 さん、寝ちまったかい。 火事なんて、いいよ、家は大家、布団は損料屋のも のだ。 久保町に旦那がいるんだろ。 足拵えもそのままに飛び出す。 寒い ったらないな、ちきしょう、歯の根が合わない。

 久蔵か、浅草三軒町から、遠い所をよく来た、出入りは許す。 (小さな声 で)そう来ると思った。 風呂敷に、つづらを載せて下さい、かつぐから、火 鉢、針箱、塵篭も。 えい、やっ。 塵篭どけてよ。 針箱も。 火鉢どけて。  全部どけたよ。 えい、やっ。 柱ごと、くくっていた。 鳶頭、どうした?  湿った、よかった。 火事は消えたよ。 一時は駄目かと思ったけれど、よか った、よかった。

 久蔵、帳付けをしてくれ。 文武の文、ぶんぶんぶん蜂が飛ぶ。 町内の方々 だ、田中屋さん、お酒を有難うございます。 兼十さん、お重詰と酒二本。 旦 那、お酒はどうします? 置いておきな。 三河屋の旦那、尾張屋さん、旦那、 このお酒どうします? 置いておきな。 浅草から来て、ノドかれているんで す。 台所で、水を飲め。 今井野さん、小梅(こんめ)屋さん、太ってるね。 永井の旦那、よくしゃべんね。

 飲むなじゃないよ、どうしてこういうことになったか、肝に銘じて、飲むん だよ。 お清さん、大きい茶碗を一つ。 酒、吟味してるな、アーーウィーー。  ほうぼうに来たね。 ダーーッ。 もう、一杯。 京町のスーさん、おっしゃ る通り、有難うございます、お元気で。 白井の旦那、旦那がいらっしゃる所 じゃない、粋なもんですねえ。 旦那、もう一つ。 見ててよ、立て続けに、 もう一つ。 右近、左近姐さん。 姐さん方、いたの。 久蔵で、あと一つ、 右近、左近で一つ、よだれが出るな。 大きな字で、書いてます。 芸者衆、 ふだんの姿が色っぽい。 華家の女将、その節は申し訳ない。 おっしゃる通 りで、面目ない。 駆け付けて、お許しが出た。 旦那がいいと言うんなら、 しようがない、しっかりおやんなさい。 酔いが醒めたから、もう一杯。 も う駄目だ、奥で寝かせなさい、掻巻をかけてやって。