『訓蒙 窮理図解』と『童蒙をしへ草』2016/02/10 06:12

教えながら学ぶ<小人閑居日記 2004.2.3.>

 きょう2月3日は福沢諭吉の命日。  それで1月31日に書いた中川眞弥 さんの講演『福澤諭吉の年少者向け著訳』から、各論にあたる部分で大切と思 うことを書いておきたい。

  1868(明治元)年『訓(きん)蒙 窮理図解』…易しい漢字ひらがな交 り文に、人々が日常の生活でやっていることの図(北斎漫画のような…馬場注) をつけ、内容も「膨脹」を猿蟹合戦で火鉢の栗が破裂して猿の顔にかかる例で 説明したり、世間の炊婢(げじょ、と振り仮名)、何ほど奉公をよく勤るとも、 鍋釜の尻を白金の如くに磨くべからず、主人のためには却て薪の不倹約なり、 などと分かりやすい。

1872(明治5)年『童蒙をしへ草』…洋学が実学一辺倒なので、修身(徳 育)書をさがし、英国のChambers 社の“The Moral Class-book”を翻訳して、 子ども向き読み物として刊行したもの。 洋学者(生)が英米の歴史書の類な どを読み、自主自由の趣旨を誤認して、放肆無頼(ほうしぶらい)の口実に使 うようなことがあると、世の中に害を及ぼすので、まず英米文明の基礎にある 徳論を学ぶことをすすめた。(福沢は分限、調和を考える人で、後年「自由在不 自由之中」という関防印を使った) 紹介されている寓話は、イソップの明治 期(慶長期はあった)最初の紹介。 キリシテタン禁制下のため、宗教の章の 翻訳を省略しているが、徳論の背景には当然キリスト教や聖書がある。  この翻訳は、『学問のすゝめ』や『文明論之概略』などにあらわれる福沢の考 えに、大きな影響を与えた。

1873(明治6)年『文字之教』…昨年6月20日、高校新聞部の会で中 川さんの「『文字之教』を読む-徳富蘇峰の指摘-」という話を聴いて、25、 26日の日記に書いた。 徳富蘇峰が福沢の文章の特色としてあげ、福沢天性・ 独特のものとした「嘲笑的な特色と相伴ふて離れざるものは、懐疑的香味是な り」の「懐疑的」というのは、今回それが「何事も本当かと疑問を呈する精神」 と聴き、昨年そこまで聴けていなかったことに気がついた。