松尾雅彦さんの農業・農村にこそ成長余地論2016/02/16 06:29

 仲間内の情報交流会で、日本の農業について、ドスンとこたえる話を聴いて きた。 元カルビー社長の松尾雅彦さん、大学の入学は同じ昭和35(1960) 年だが、全塾自治会委員長などを務めて、卒業年は昭和40(1965)年、塾始 まって以来の「全学ストライキ」を経験したという。 家業のカルビーに入っ てからは「かっぱえびせん」の大成長と「ポテトチップス」事業の起業に成功 し、菓子業界にスナック時代を拓いた革命児と目された。 1992~2004年社 長、会長を経て2006年から相談役。 2005年NPO法人「日本で最も美しい 村」連合を設立し副会長、地域資源の活用を考えるスマート・テロワール協会 の会長も務める。 2014年著書『スマート・テロワール 農村消滅論からの大 転換』(学芸出版社)を上梓した。 テロワールとは、土地を意味するフランス 語から派生した言葉で、ワインを始めとして、お茶やコーヒー、チーズなどの 生育環境、その土地ならではの土壌や気候などの自然条件に、生産者のアイデ アや工夫まで含めた地域の栽培法の特徴まで加えた概念だ。 「スマート・テ ロワール」は「美しく強靭な農村自給圏」で、「日本で最も美しい村」の運動に つながる。

 松尾さんは40年かけて全国の農村をくまなく回った。 カルビーが「ポテ トチップス」や「じゃがりこ」の原料となるジャガイモ生産のために契約して いる農家は2500戸、農地面積は7千ヘクタールだという。 1975年、ポテト チップ事業開始前、アイダホでマクドナルドのポテトフライ加工工場を視察し た。 ジャガイモ加工の残渣(イモの皮)で5万頭の牛を飼育し、牛の糞尿は 堆肥となって畑作物の圃場へ、畑作輪作と加工場・畜産の循環システムが機能 しているのを見て、ポテトチップ事業は大事業だと予感した。 日本では、畜 産と畑作の連携がなかった。 北海道東藻琴村のジャガイモ栽培では、小集団 活動で、豊凶の激しい地域が「堆肥センター」を装備して見違える成果を実現 している。 反収は、それまで日本では3トン位だったのが、4.5トンと世界 標準であるスコットランドの反収増ラインに乗った。 耕畜連携・農工一体の 成果を確認した。

 日本の最大の問題は「少子高齢化」ではなく、「向都離村」である。 子育て にいい農村の人口減少、生活環境で悲惨な大都市への人口流入がある。 職業 別では農業の出生率は2.6%もある。 1万人以下の自治体の人口は、5年間で 7%減少しており、政府、総務省は人口減少を見込んで対応せよ、としている。  企業なら、原因を探索して、改革に立ち上がるところだ。 農村消滅論どころ か、農業・農村にこそ成長余地がある。 その実現を阻んでいるのは、水田を 偏重する「瑞穂の国」だ(休耕田への補助金が始まったのは、コメの生産が過 剰になった1964年の7年後)。 休耕田100万ヘクタール、耕作放棄地50万 ヘクタール、併せて日本の耕地の1/3にあたる。 余っている水田や休耕田 を畑や放牧地に転換し、自給率の低い畑作物を栽培して、農村域内の工場で加 工出荷すれば、味はもちろん、価格も、輸入原料によるナショナルブランド商 品に負けないものがつくれる。 その結果、曖昧な活用の水田100万ヘクター ルがよみがえれば、15兆円の新しい産業創造につながるというのだ。 既存の 農業は8兆円しかない。 これによって輸入の減少を1兆円以上見込め、減反 作物への助成は不要となる。 なぜ、それが活用されずに、眠っているのか?  は、また明日。