鎌倉案内としての『ツバキ文具店』2016/06/15 06:18

 小川糸さんの『ツバキ文具店』は、ある種の鎌倉案内にもなっている。 初 めに書いた「鎌倉案内図」があるのは、そのためだろう。 「鎌倉は一大心霊 スポットなのである」という記述がある。 自慢じゃないが、鎌倉にはお化け に関する目撃情報が後をたたないのだ、と。 とくに鳩子が住んでいる界隈は、 特に頻発する。 鎌倉はかつて、激しい合戦が繰り広げられた場所で、人が殺 されたり、一族が滅亡させられたりした跡というのが、そこここにあるのだ。  町全体が巨大なお墓といっても過言ではない。 あっちにもこっちにも、お寺 ばかり。

正月、鳩子がこの小説を彩る友人たちと、鎌倉七福神めぐりに出かける。 先 日、「六四(むし)の会」で行った建長寺は、天園ハイキングコースの入口とい うだけでなく、鳩子はその登りを階段地獄だと思う。 すると借金申込の断り 状の依頼主の「男爵」が、このお寺さんは地獄谷の跡地に建てられたからなぁ、 その昔、ここは刑場だったらしいぞ、と言う。 余談だが、大河ドラマ『真田 丸』を見ていて、北条の家紋と、建長寺のマーク(紋)が、同じ「三つ鱗」だ と気が付いた。

鎌倉七福神めぐり一行は北鎌倉駅前で集合するのだが、「男爵」は「光泉(こ うせん)」に稲荷寿司をつくってもらっていた。 「光泉」は実在のお店だ、以 前、何かのテレビ番組で見たことがある。 とすると、この小説に登場する食 べ物屋や喫茶店やバーは、ほとんどが実在するのかしれない。 由比ヶ浜通り にある鰻の老舗「つるや」、その向かい側のイタリア料理店、六地蔵の交差点の 銀行だったのが小児科になった後のお洒落なバー。 よくテレビで「鎌倉野菜」 を紹介される鎌倉市農協連即売所、レンバイの中にある「パラダイスアレイ」 という小さなパン屋さんの餡パン。 鎌倉駅からすぐの線路沿いにある、女性 店主が手作りの穏やかな料理を食べさせてくれる「サハン」。 裏駅の紀ノ国屋 の角を曲がったスターバックスの手前の「ガーデン ハウス」でグラノーラセッ ト、スターバックス御成町店は漫画家横山隆一さんの邸宅がそのまま使われて いる。 カレー屋では「キャロウェイ」「オクシロモン」、「露西亜亭」のカレー パン、本覚寺裏の山形郷土料理「ふくや」の芋煮カレー蕎麦、長谷の「ウーフ カレー」。 地元の友人たちがお花見の会に持ち寄るのは、「ひなとり処鳥一」 のコロッケや焼き鳥、「萩原精肉店」のローストビーフ、「ベルグフェルド」の ソーセージ、デザートには「麩帆(ふはん)」の麩饅頭、「松花堂」のあがり羊 羹。

寺社の名前も、浄智寺、寶戒寺、壽福寺、荏柄天神、十二社(じゅうにそ) 神社、太刀洗水、銭洗弁天、材木座の由比若宮(元八幡)、光明寺、そして鎌倉 宮の厄割り石(かわらけをぶつける厄おとし)、鶴岡八幡宮の大祓(おおはらえ) で頂くおはらひさん、田楽辻子(ずし)のみち、二階堂川のホタル、八幡様の 源平池の蓮の花なども、登場する。