きちんと説明しなかった政府が問題2016/06/19 06:56

 渡辺利夫さんの「歴史認識問題―何が「問題」なのか」に戻る。 (1)歴 史教科書問題は、(私が「等々力短信」に書いたように)誤報が発端だったにも かかわらず、真実として日本国内はもとより、世界をかけめぐり、中国と韓国 からの抗議で深刻な外交問題に発展した。 問題は、政府である。 説明をす ればいいのに、それをしなかったばかりか、次のような宮沢喜一内閣官房長官 談話を出した。 当時は、鈴木善幸総理大臣、小川平二文部大臣だった。

 昭和57年8月26日の、その談話を外務省のホームページから引いておく。  一、日本政府及び日本国民は、過去において、我が国の行為が韓国・中国を 含むアジアの国々の国民に多大の苦痛と損害を与えたことを深く自覚し、この ようなことを二度と繰り返してはならないとの反省と決意の上に立って平和国 家としての道を歩んできた。我が国は、韓国については、昭和四十年(1965) の日韓共同コミュニケの中において「過去の関係は遺憾であって深く反省して いる」との認識を、中国については日中共同声明において「過去において日本 国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことの責任を痛感し、深く反 省する」との認識を述べたが、これも前述の我が国の反省と決意を確認したも のであり、現在においてもこの認識はいささかの変化もない。

二、このような日韓共同コミュニケ、日中共同声明の精神は我が国の学校教 育、教科書の検定にあたっても、当然、尊重されるべきものであるが、今日、 韓国、中国等より、こうした点に関する我が国教科書の記述について批判が寄 せられている。我が国としては、アジアの近隣諸国との友好、親善を進める上 でこれらの批判に十分に耳を傾け、政府の責任において是正する。

三、このため、今後の教科書検定に際しては、教科用図書検定調査審議会の 議を経て検定基準を改め、前期の趣旨が実現されるよう措置するが、それ迄の 間の措置として文部大臣が所見を明らかにして、前記二の趣旨を教育の場にお いて十分反映せしめるものとする。

四、我が国としては、今後とも、近隣国民との相互理解の促進と友好協力の 発展に努め、アジアひいては世界の平和と安定に寄与していく考えである。

つまり、最初の誤報について何も説明せず、誤報に続いて拡散した報道と、 それに対する韓国・中国の批判や反響に狼狽して、この談話となった。 文部 大臣は検定基準を改正し、近隣諸国との善隣友好に配慮するという「近隣諸国 条項」を追加、それが現在もある。