一之輔の「粗忽の釘」前半2016/07/23 06:27

 喬太郎師匠、新宿末広亭へお出でになりました、と一之輔。 落語研究会、 テレビでは起きられないような時間にやっている。 先日、たまたま師匠の一 朝が「植木のお化け」をやっているのを、一人で見ていた。 すると家内が、 この人に憧れて噺家になったんでしょう、ぜんぜん違うんじゃない、あんた、 と言った。 11.5歳(?)の子供が、パパと師匠、「みんなちがって、みんな いい」、といいことを言う。 みつを(相田)でしたか? (私は「違う、金子 みすゞ」とつぶやく)

 電車が止まってた、地震かなんかで。 タクシーに乗ると、運転手が陽気、 いらっしゃい、特需ですよ。 自分のリクライニングを倒して、失礼しました、 って。 タブレットを見ている。 自分でインプットして、ナビより使いやす い、いろいろなもの取り入れてやっている。 アッ! 15分位、メーター入れ るの、忘れていた。 ぼくのせいですから、大丈夫です。 ドアを、ウチの門 にガン! お客様、大通りまで、どう出たらいいんでしょう? タブレットを 見れば? 充電が……。

 ワンランク上の、そそっかしいのがいる。 煙草のみてえ、今日は引越し、 この家を出て行くのかと思うと、さみしい。 箪笥くるむ布(きれ)を出して。  何? あれ。 風呂敷、出せ。 よいしょ、行って来る。 長火鉢を乗っけろ。  こういう時は、甘えればいいんだ。 針箱を乗せろ。 女の物だから、私が持 ってくよ。 甘えるんだ。 死んだ爺さんのおまる、乗せろ。 台所の大神宮 様のお札、おまるの中に入れろ。 罰が当たるよ。 大神宮様は、いい人なん だ。 エイ、ヤッ! お札、取れ。 お札なんかじゃ、いくらも変わらないだ ろう。 気のもんだ。 ヤッ! おまるを、下ろせ。 ハッ! 針箱、下ろせ、 女の物だろう。 エイッ! 長火鉢を下ろせ。 ヤッ! 柱ごと、くるんでる よ。 ハハハ、新しい引越しだ。 笑ってごまかすんじゃないよ。

 箪笥を担いで出た亭主が、来てない。 洗濯が終わって、その洗濯物が乾い ても、来ない。 庭で土いじりもして、ボトルシップの「飛鳥」が出来た。

 大工の八っつあんのお宅は、こちらでしょうか。 あんた、どこへ行ってい たの。 髭が濃くなった。 神田神保町から、新宿の大ガードまで行った、箪 笥担いだ旅人だ。 下ろしてから、何か言えばいい。 知ってます。 煙草を のむよ。 その前に、お願いがある。 ホウキが寝かしてあるだろう、釘を一 本打っておくれ。 一服してからなら、何本だって打ってやるよ。 パチンコ 屋じゃない。 今、打ってもらいたいんだよ。 指をボキボキさせて、打つよ。  釘、八寸の瓦ッ釘、大は小を兼ねるっていうからな。 蜘蛛の巣が、張ってる。  でけえ蜘蛛だ。 この野郎、タッ、タッ、タッ! 痛ェッ! (右の指をくわ えて、気付いて、左の指をくわえる) 打ち込んじゃった。 長屋の壁は薄い んだよ、お前さん、行きな。 早く、行って来いって、言っているんだよ。