扇辰の「藁人形」前半2016/07/25 06:34

 扇辰は鼠色の着物に、薄茶の羽織。 顔ぶれが若くなりました、私が最年長 で。 と言っても、キャリアは大した長さじゃない、平成元年、喬太郎より三 月早かった。 昇進は、あちらが早くて、裏でかなりの金が…。 一之輔は、 これから海外の興行。 あたしが去年行ったんで、二人続けて日本代表。 一之 輔は、今日が見納め。

 神田竜閑町に、遠州屋という大きな糠(ぬか)屋があった。 師匠の扇橋の 家で修業していた頃、はばかりと玄関を掃除して、糠味噌をかき回す。 ニチ ャニチャしているが、やっているうちに、気持よくなる。 食ってみると、旨 い。 浅漬もいいけれど、ずっと入っていたもんが手に当ったりする古漬を、 刻んで、水にさらして、布巾で絞って、針生姜を乗せ、下地を少しと、かつ節 をかける。 旨いもんでしたね。 ほかに糠の利用は、駄菓子、アク抜き、鳥 の餌、植木の肥やし、糠袋なんかがあった。 って、言おうと思ってたら、今 日のプログラムに全部書いてあった。

 遠州屋の一人娘でおくまというのが、上方に逐電した。 帰ってみると、上 方に行っている内に、家が潰れて、両親は亡くなっていた。 仕方なく、千住 の若松屋という女郎屋の女郎になった。

 千住の河原の西念という坊さん。 花魁、嬉しそうだな。 上方の旦那が、 足を洗ったら、身請けをして、駒形の近くに絵草子屋を買ってくれることにな ったんだよ。 眉(マミエ)落として、歯を塗って、襟付きの着物を着るんだ。  西念さんは、死んだ親父と瓜二つ、家に引き取りたい。 親孝行の真似事をし たいのよ。 勿体ない話で…、何でもします、働きます。

 五、六日して、朝っぱらから、おくまが茶碗酒をやっている。 これが飲ま ずにいられるかい。 上方の旦那が、上方へ帰ったら、若いもんが来て、絵草 子屋の後金(あときん)二十両、払ってもらいたいって、言って来た。 西念 さん、あの話、駄目になっちゃった。 後金二十両払えば、絵草子屋、花魁の ものになるんで?  二十両、ご用立てしましょうか。 あっしは、元は「か 組」の嘉吉っていう鳶の者で、仲間を叩っ殺してしまったんだ。 花会をやっ て、二十両なにがしになった。 二十両はカメに入れて、縁の下に隠した。 折 を見て、出して来ますよ。 橋一つ渡った。 私の金、使って下さい。 私の お酌で、一杯やって頂戴。 その晩、西念は、赤い蒲団で泊った。

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