扇辰の「藁人形」後半2016/07/26 06:36

 西念は風邪をひいて七日間、寝込んでしまった。 ようやく竹の杖をついて 出かけ、若松屋へ。 ごめん下さいまし。 エーッ、おくま大(だい)、西念さ んが来てます。 あの話、どうなりました、駒形の絵草子屋。 そんな話が、 あったかね。 二十両、ご用立てした。 ちょいと西念さん、変な言いがかり をつけないでもらいたいね。 何、言ってんだい、あの晩、ウチで泊った勘定 だと思って、もらっといたよ。 仲間と賭けをして、持ってる方に賭けた狂言 だよ。 西念さん、ご馳走様。 何だい、西念さん。 今日は帰えれ(と、若 いもんが叩き出す)。 おくま、憶えてろよ。

 ごめん下さいまし。 長屋の家主さんですか、あっしは仁吉って、けちな野 郎で、西念さんはいませんか。 甥御さんかい。 二十日の余のこと、七日間、 寝込んで竹の杖をついて出かけて、血だらけになって、帰って来た。 ちょい と、様子を見て来て下さい。 これ手土産代り、長屋の皆さんで蕎麦でも…。

 叔父さん、叔父さん、甥の仁吉だよ。 叔父さん、いったい、どうしたんだ よ。 今日、御牢中を出たところで、目が覚めたよ。 叔父さんの面倒を見さ せてもらいたい、親孝行の真似事をさせてくれ。 そうか、蕎麦を御馳走して やろう。 冷や飯草履を引っかけ、竹の杖にすがって、外へ行こうとして…。  お前の前にある鍋、蓋を取って見るな。 後生だから、中を見るな。 ちょい と、行ってくらあ。

 あれじゃあ、背中の昇り龍、下り龍も、しなびたかもなあ。 それにしても、 見るなと言われると、見たくなるな。 ゲッ、油の中に、藁人形が浮かんでい る。

 仁吉、今帰えったよ。 おい仁吉、鍋ん中を見たな。 蓋の向きが、違って る。 見られちゃあ、駄目だ。 俺の念力が、届かねえ。 若松屋の女郎に、 二十両、騙り盗られたんだ。 なんで、藁人形に五寸釘てえ呪いじゃねえんだ。  そりゃ釘じゃ利かねえんだ、相手の女がな、糠屋の娘。

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