「トマト」と「雲の峰」の句会2016/07/31 06:24

 7月14日はパリ祭で、ニースでとんでもない事件の起こった日だったが、そ れより前、関東地方は夕方からゲリラ雷雨含みの不穏な天候だった。 『夏潮』 渋谷句会を開いている間中、土砂降りの大雨の音がしていたが、終わって外に 出ると止んでいたのは、幸いだった。 兼題は「トマト」と「雲の峰」、私はつ ぎの七句を出した。

まるかじり昔の味のトマトかな

穫れ過ぎの話ばかりやミニトマト

天麩羅のトマト珍らし舌を焼く

頂上にパゴダが一つ雲の峰

トンネルを出ればはだかる雲の峰

雲の峰東京砂漠に湧き上がる

スカイツリーを見くだしてをり雲の峰

 私が選句したのは、つぎの七句。

帰りぎはトマトを二つ手渡され       和子

ぱつぱつのトマト盥に冷やされて      なな

茎ごとに押し合ふ数やミニトマト      なな

代替わり親子で作るトマト畑        善兵衛

真つ白なシャツとシーツと雲の峰      孝治

クレーンの長きアームや雲の峰       盛夫

屋上のプールで見てた雲の峰        明雀

 私の結果は、相も変わらぬ鳴かず飛ばず、互選がゼロで、本日はスコンクか と思いきや、主宰選に二句入って、地獄に仏の英先生となったのであった。 そ の選評、<頂上にパゴダが一つ雲の峰>…面白い句。円錐台の山頂にパゴダが あると見えた。(実は、阿波踊りを見に行った徳島の眉山を詠んだものだったが …。) <トンネルを出ればはだかる雲の峰>…いい、長いトンネルだろう、飯 山から妙高高原に抜けるあたりのような。ここからが旅の本番、バカンスに出 たばかりのような、ウキウキ感。

 本井英主宰は総論で、明け方に見た夢に関連して、水蒸気たっぷりの句会の 話をした。 この渋谷句会のように、水滴ではなく、99%水蒸気が満ち満ちて いるような、読解力がある句会の場では、シンプルな、すらっとした句も、し っかり鑑賞してもらえる。 よい読み手のいる、そうした環境が大事。 その 反対の、ものほしげで、目立たしい句を、月並という。 読者に媚びている、 いやらしい句だ、と。  私は改めて、互選ゼロだったわが七句を見直したのであった。

小人閑居日記 2016年7月 INDEX2016/07/31 06:44

7070 「19世紀後半のイェール大学における中国人と日本人留学生」<小人閑居日記 2016.7.1.>
7071 ニューイングランドの「知東洋派」<小人閑居日記 2016.7.2.>
7072 イェール大学における日中留学生<小人閑居日記 2016.7.3.>
7073 柳家花ん謝の「権助提灯」<小人閑居日記 2016.7.4.>
7074 文菊の「甲府い」<小人閑居日記 2016.7.5.>
7075 白酒の「船徳」<小人閑居日記 2016.7.6.>
7076 鯉昇の「日和違い」<小人閑居日記 2016.7.7.>
7077 小満んの「髪結新三(下)」<小人閑居日記 2016.7.8.>
7078 杉山伸也・川崎勝編『馬場辰猪 日記と遺稿』<小人閑居日記 2016.7.9.>
7079 啓蒙、自由民権の時代から、渡米決意へ<小人閑居日記 2016.7.10.>
7080 「外からの改革」と馬場辰猪の客死<小人閑居日記 2016.7.11.>
7081 「史論」、帰納法を用いた人民の歴史<小人閑居日記 2016.7.12.>
7082 馬場辰猪作の幕末維新物語「悔悟」<小人閑居日記 2016.7.13.>
7083 「悔悟」の意味するもの<小人閑居日記 2016.7.14.>
7084 馬場孤蝶の言う「訳語の不足」<小人閑居日記 2016.7.15.>
7085 藤沢周平を描いたテレビドラマ<小人閑居日記 2016.7.16.>
7086 その時期の藤沢周平年譜<小人閑居日記 2016.7.17.>
7087 「暗い情念」から「明るい絵」へ<小人閑居日記 2016.7.18.>
7088 立川吉幸の「家見舞」<小人閑居日記 2016.7.19.>
7089 台所おさんの「馬の田楽」<小人閑居日記 2016.7.20.>
7090 喬太郎の小泉八雲原作「雉子政談」前半<小人閑居日記 2016.7.21.>
7091 喬太郎の小泉八雲原作「雉子政談」後半<小人閑居日記 2016.7.22.>
7092 一之輔の「粗忽の釘」前半<小人閑居日記 2016.7.23.>
7093 一之輔の「粗忽の釘」後半<小人閑居日記 2016.7.24.>
7094 扇辰の「藁人形」前半<小人閑居日記 2016.7.25.>
短信 7095 翻訳家の苦心と喜び<等々力短信 第1085号 2016.7.25.>
7096 扇辰の「藁人形」後半<小人閑居日記 2016.7.26.>
7097 弱き者、汝の名は「男」なり<小人閑居日記 2016.7.27.>
7098 狐の嫁入りの蒔絵、印籠と櫛<小人閑居日記 2016.7.28.>
7099 児玉和子さんの第二句集『熊鈴が』<小人閑居日記 2016.7.29.>
7100 「渋谷句会」で生れた句、わが学習<小人閑居日記 2016.7.30.>
7101 「トマト」と「雲の峰」の句会<小人閑居日記 2016.7.31.>