「海の見える理髪店」ネタバレの後半2016/08/03 06:20

 老舗っていうだけのボロ店に、いつまでもしがみついていちゃだめだって考 えて、借金をして改装した。 ハイリスク、ハイリターン。 ホテルのロビー みたいな造りにして、腕の立つ男を一人だけ、高給を約束してある店から引き 抜いた。 それからマッサージを一から学び、二人で講習会に通い、シャンプ ーもトニックも何もかも、上等の品を揃えた。 そのかわり、料金を高く設定 した。 そして有名な俳優の方を始めとして、皆様にご贔屓いただくようにな った。 銀座に二号店を出したのは、四十八の時。 経営者にもなった。 口 説きに口説いて二番目の女房をもらったのは、二号店を出した翌年。 よくで きた女房でした。 子どもも生まれた。

 しかし銀座への出店は失敗で、また酒に溺れるようになった。 本店を任せ ていた男が、突然、店をやめて独立すると言い出した。 常連さんと飲んでい るところを呼び出され、酒がだいぶ入っていて、爆発し、カッとなって、近く にあったヘアアイロンで頭を殴ってしまった。 傷害致死。 妻とは服役中に、 向こうは拒絶したが、強引に説き伏せて離婚。 人殺しの妻、人殺しの子、と 言われるのが不憫で。

 出所後は、もう床屋をやめるつもりだった。 家と店を売って、ご遺族に賠 償金を払った。 保護司さんの紹介で、老人ホームの出張散髪を始めたら、つ くづく思った。 私にはやっぱり床屋しかないと。 ここに店を移して十五年 になります。

 最後までよく喋るジジイだとお思いでしょう。 こんなことまでお話したの は、お客さまが初めてです。 あなたにだけは話しておこうと思って、もう私、 そう長くはないでしょうから。

 それにしても珍しい場所につむじがおありですね。 ええ、つむじっていう のは、お一人お一人違います。 頭の後ろの縫い傷は、お小さい頃のものでし ょう。 その傷はね、ブランコから落ちた時のものですよ。 河川敷の公園の ブランコです。 女房は親馬鹿だと笑いましたけれど、私、ブランコを買って、 家の庭に置いたんです。 ここの庭に古いブランコがありましたでしょ。  お母様はご健在ですか。

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