さん喬の「よかちょろ」2016/08/13 06:31

 ポケモンGOというのが流行っているようですが、まわりを見ないで小さな 画面ばかり見ていると、ものが狭くなる。 女性と付き合うより、ゲームとい うことになる。

 番頭さん、倅は帰って来ないんだろ、矢野さんの掛け金二百円、番頭さんか 芳吉に行ってもらおうとしたら、番頭さんが、若旦那様は最近は真面目になっ て、自信をなくすからと、太鼓判を押すから出したんだ。 三日経っても、帰 って来ないじゃないか。 今日はきつく小言を言うから、仲裁に入らないよう に。 遊びも、のべたらはいけない、たまにはいいけれど。 (番頭は、旦那 の言うことを、オウム返しに言う) 番頭さんは、わたしの言うことを、なぞ っているだけだ。 人の話を、上っ面だけ聞いている。 いいね、倅が帰った ら、小言を言うから。

 番頭ーッ! 若旦那、そこに隠れていたんですか。 遊びとご商売を、きち んと分けて下さい。 旦那様と花魁と、どっちが大事ですか? そんなこと聞 く馬鹿があるか、花魁だよ。 花魁がね、若旦那とは星が合うと言うんだ。 若 旦那の星、サーーッ? 雨じゃない。 聞きたいだろ。 梅干ですってんだ。  サーーッ? 聞きたいだろ。 あなたをすいているから、梅干ですよって。 俺 の体は、花魁から預かっている体だ。 若旦那と世帯を持ちたい、半年経てば 自由になれるから。 その代り、あなたの体は私のもの、怪我などしないよう に、ってんだ。 大旦那の所へ行って下さい。

 矢野さんの掛け金二百円、使ったんだな? 当り。 二晩か三晩で、二百円 も使っちゃったのか。 人さまから馬鹿にされて、使わされているんだ。 筋 を立てて使っているから、一つずつ言える。 帳面に付けて、十銭でも合わな いと勘当だ。 では、髭剃りを五円、と願います。 三十銭、五十銭で、床屋 が何から何までやってくれるだろう。 吉原では、十二畳の部屋に、百三十五 円の鏡があって、花魁の部屋着を着て、友禅の座布団に座ると、床屋の若い衆 が、こういう恰好でやってくれるんで。 

「よかちょろ」四十五円。 座敷もので、今、安い、これから流行るだろう と、仕入れました。 そうか、さすが商人、蔵はいくらでも空いている、どん どん仕入れろ。 どんなものか、見たかったな。 今、お目にかけます。 ♪女ながらも、まさかのときは、ハッよかちょろ、主に代りてェ玉ァ襷ィ、 よかちょろ、すいのすいの、して見てしんちょろ、味を見ちゃ、よかちょろ、 しげちょろ、パッパー。 これが四十五円。 婆ァさん、笑うんじゃないよ。  コウ坊は、お金盗んで行ったわけじゃない、店の金、うちの金よ。 二十二だ よ、世間の人は一人前だと思う。 お父っつあんと、コウ坊は、年が違う。 私 があなたと一緒になったのは十七で三つ違いでした、今でも三つ違い…。

番頭、金を貸してくれないか。 いくらですか。 二百円ばかり。 馬鹿な こと言っちゃあ、いけませんよ。 お前がいつもやっていることだ、チョコチ ョコやってくれよ。 私は出来ません。 私は朝湯が好きでね。 隣町の桜湯 へ行って、出て来たら、女湯のほうから二十七、八の色白で、目が大きい、割 りに色気のある女、湯上りでのめりの下駄、短めの浴衣だ。 後を付いて行く と、駕籠屋新道を抜けて、長屋の行き止まりの奥から二軒目の左、御神燈の上 がっている家、清元信なにがしの看板があった。 洗濯をしているおかみさん に聞けば、あれは看板だけ、お囲い者だと言う。 どちらの? 横山町三丁目 の鼈甲問屋、山崎屋の番頭さんが面倒を見ていると言うじゃないか。 お座り よ。 この先を聞きたいか。 ここで、若旦那と番頭が結託をするという「山 崎屋」というお噺になるのですが、それは、また。