いい絵が沢山、そして東京風景2016/09/27 06:25

 改装後初めて入った東京ステーションギャラリーだが、絵が架けられている 壁など、ところどころに東京駅創建時の煉瓦壁がはつって使われているのが、 とても趣きがある。 三階建ての構造を結ぶ木の階段なども、お金をかけてつ くられており、段数の多いのが、各階の天井の高さを感じさせた。

 素晴らしい展覧会だった、と書いたのは、集められている絵だった。 日本 全国の美術館などから来ている。 まず、明治末からの当時は雑誌の図版で紹 介された、ヨーロッパ美術の作品の実物だ。 セザンヌ、ゴッホ、ミレー、ピ サロ、シスレー、モネ、ドガ、ルノワール、ロダン、ドーミエ、シニャック、 ボナールなど。 山形美術館に寄託された吉野石膏株式会社蔵のゴッホ《雪原 で薪を集める人びと》は、初めて見た。 薪を背負った四人家族が歩く、雪原 の果てに太陽が沈む。 大原美術館のルノワール《泉による女》の隣にあった 同館蔵、楕円形のエドモン=フランソワ・アマン=ジャンの《髪》も独特、児 島虎次郎が大原孫三郎の許可を得て最初に収集した西洋絵画だ。

 「動き出す時代―新帰朝者たちの活躍と大正の萌芽」の章では、藤島武二、 湯浅一郎、白瀧幾之助、有馬生馬、南薫造、斎藤与里、橋本邦助、正宗得三郎、 浜田葆光、津田青楓、中村彜、萩原守衛、戸張孤雁、柳敬助、梅原龍三郎、満 谷国四郎、児島虎次郎、斎藤豊作、石井柏亭、川上涼花、坂本繁二郎、渡辺与 平、大野隆徳、近藤浩一路、小絲源太郎、山脇信徳、岸田劉生が並んでいる。

 「動き出す絵画―ペール北山とフュウザン会、生活社」の章、とりわけびっ くりしたのは、木村荘八と萬鉄五郎だった。 木村荘八は今まで、挿絵や水彩 画という印象だったのだが、《祖母と子猫》《自画像》など油絵が4点(次章に も《壺を持つ女》など4点)、どれも丁寧に描かれていた、とてもいい。 萬 鉄五郎は、《雲のある自画像》《女の顔(ボアの女)》《日傘の裸婦》など、どれ も一癖も二癖もあって面白い。 ほかに斎藤与里、岸田劉生、川上涼花、鈴木 金平、川村信雄、田中恭吉、小林徳三郎、バーナード・リーチ、藤井達吉、川 上邦世、毛利教武、高村光太郎(《佐藤春夫像》大正3(1914)年、《上高地風 景》大正2(1913)年←焼岳の噴火で大正池が出来る2年前)、山下鉄之輔、 川上涼花、埴原久和代、北山清太郎(つまりペール北山)の絵が並ぶ。

 「動き出した先に―巽画会から草土社へ―」の章では、岸田劉生が10点、《青 き帽子の自画像》《男の像(北山清太郎)》や、山藤章二が大平正芳首相に戯画 化した例の《童女図(麗子立像)》がある。 ほかに木村荘八、椿貞雄、高須光 治、河野通勢、横堀角次郎、中川一政もある。

 この展覧会で、特に感じたのは、明治末から大正の東京風景が実にのどかな ことだ。 田園に近いところもある。 明治末、小絲源太郎《屋根の都》、岸田 劉生《銀座と数寄屋橋畔》《日比谷の木立》、木村荘八《虎の門付近》。 大正に 入ると、木村荘八《畑(雑司が谷)》《水道橋》、田中恭吉《池袋にて》、横堀角 次郎《風景(斎藤山から大崎遠望)》←品川と確認、中川一政《板橋風景》。 岸 田劉生の《代々木附近》は、教科書に載っている有名な《道路と土手と塀(切 通之写生)》(東京国立近代美術館蔵)の近くの絵だろう。