三三の「高砂や」2016/10/06 06:38

 三三は鼠色の羽織に、黒い着物、空色の襦袢がちょと覗いて、すっきりした 形だ。 先日、台風の日に、鈴本と池袋に出番があった。 お客様は、誰も来 ないだろうと思ってたら、鈴本は15人ほど。 友達がいない人なんでしょう、 バランバランに座って、お赤飯にゴマ塩かけたよう。 それで受けないかと思 ったら、気違いのように笑う。 極限状態の連帯感というのか、いつもは受け ない仲間まで受けている。 で、今日は調子がいい、と言っている。 池袋は お客様が10人ほど。 ここは1人だったことが、何回かあった。 1人という のは、とても演りにくい。 けれど、誰もいないということはなかった。 地 下組織で、池袋演芸場を守る会なんてのがあって、派遣して来るんでしょうか。  マゾ…、佐渡でトキを守る会みたいな。

 見当がつかないから、ご隠居の所に聞きに来た。 八っつあん、何だい。 何 を聞きに来たか、忘れちゃった。 おばあさん、お茶だ、お茶でも飲んで思い 出しな。 おばあさん、古いですね。 ずっと古いわけじゃない、19の時に嫁 に来た。 くっつき合いですか。 ちゃんと、お仲人があって。 そのお仲人 ってのを、あっしが頼まれた。 友達のなら、天丼一つ取って、三本締めで済 む。 それが伊勢屋の若旦那の仲人を頼まれた。 伊勢屋さんも、ずいぶん思 い切った作戦に出たもんだね。 あっしは大工だから、材木問屋の娘が使いに 来たのを、たまたま伊勢屋の若旦那が見初めた。 それで橋渡しを、伊勢屋の 大旦那に頼まれたという訳で。 箔が付くから、引き受けろ。 あちらなら西 洋料理だろう。 西洋ローリですか、ハムカツは好きだ。 ハムカツなんか、 出ないな。 ヒレカツですか。 何でカツなんだ。 ろくなものはないでしょ うが、紋付き羽織袴を貸して下さい。 おかみさんの着物はあるのか。 かみ さんはどうでもいい。 仲人は夫婦でするんだ、婆さんの若い時分の着物を貸 すよ。

 言葉遣いに、気をつけなきゃあいけない。 忌み言葉というのがある、「離れ る」「切れる」「別れる」「出る」「帰る」なんて言っちゃあだめだ。 「帰る」 は「ずらかる」ですか? 「お開きにする」。 ご祝儀をやるのがいいな。 ご 祝儀? 腹を見せるんだ。 毛深い。 「高砂や」だよ。 高砂部屋? 「♪ 高砂や この浦舟に 帆を上げて 月もろともに 出汐(いでしお)の 波の 淡路の島影や 遠く鳴尾の沖過ぎて はや住之江に 着きにけり」。 忌み言葉 だから、「出汐」は「来る汐」(?)、「遠く鳴尾」は「近く鳴尾」と言い換える。

 白扇を貸すから、やってみな。 目は八分目、鴨居のあたりを見る。 そん な馬が喘息患ったような声を出すんですか。 いい声が出るかい。 エッ、ノ ドが自慢で、声がいいって言われるんで。 ♪テトトン、ストトン…。 それ、 抜きでやれ。 ♪高砂や この浦舟に 帆を上げて。 都々逸じゃないか、も っと下の方から声を出すんだ。 タカタカタカタカ…。 長く引っ張って。 高 砂ーーッ、柴又線乗り換え!(笑) これ、山形でやったら、誰も笑わなかっ た。 ♪高砂や この浦舟に 帆を上げて。 浪花節だ、次郎長になる。 や めましょう。

 出だしだけやればいい、あとは皆さんがつけて下さる。 近所に来るお爺さ んの豆腐屋の真似は出来ないか。 十八番中の十九番、あっしがやると、おか みさん達が桶を持って出て来る。 トーーフィーー! 謡に似ている、その調 子でやればいい。 タカフィーー! 一歩一歩の成長を、見守って下さい。 ト ーーフィー、タカサゴヤー。 コノウラブネニ、ガンモドキ。

 お仲人の八五郎さんが、ご祝儀をつけて下さる。 一つ、よろしくお願い致 します。 トーーフィー、タカサゴヤー。 コノウラブネニ、ホヲアゲテ。 け っこう、けっこう。 タカサゴヤー、コノウラブネニ、ホヲアゲテ。 タカサ ゴヤー、コノウラブネニ、ホヲアゲテ。 そこは再三聞かせていただきました、 その先をお願いします。 あとは皆さんでつけて下さい。 親類一同、不調法 でして…、お仲人さん、お続けを。 タカサゴヤー、コノウラブネニ、ホヲ下 げて…。 下げちゃあ、駄目ですよ。 タカサゴヤー、コノウラブネニ、ホヲ また上げて…。 お泣きになっても…、どうぞお先を。 タカサゴヤー、コノ ウラブネニ…、ウゥッ、助け舟ェ!!