土曜ドラマ『夏目漱石の妻』2016/10/22 06:30

 『夏目漱石の妻』、NHK総合テレビが9月24日から全4回で放送した土曜 ドラマがとてもよく出来ていて、面白かった。 池端俊作、岩本真耶・作。 夏 目鏡子を尾野真千子が好演、漱石の長谷川博己、脇を固めた鏡子の父・中根重 一の舘ひろし、漱石の養父・塩原昌之助の竹中直人も、なかなかよかった。

 悪妻という評判だった「夏目漱石の妻」鏡子だが、私は以前、半藤一利さん の『漱石先生ぞな、もし』(文藝春秋・1992(平成4)年)を読み、それとは異 なる印象を持っていた。 池端俊作さんは、漱石の孫の半藤末利子さん(半藤 一利夫人)から、鏡子さんが晩年に「いろんな男の人を見てきたけど、あたし ゃお父様(漱石)が一番いいねえ」と言っていたと聞いて、このドラマを書く ことにしたという。 漱石・鏡子夫妻の長女・筆子は、小説家の松岡譲と結婚、 その子が末利子さんと松岡陽子マックレインさんだ。

 『漱石先生ぞな、もし』に「悪妻」という一文がある。 孫である末利子さ んの話をいろいろ聞いたところによると、漱石・鏡子夫妻、どっちもどっちと いう気がするという。 病気でないときの漱石はよき亭主であったようである し、夫人も「妻として母として」よく尽している。 『吾輩は猫である』をよ くよく読むと、漱石の夫婦愛がよく出ている作品はこれがいちばんのようで、 皮肉のウラに深い思いやりがある、と半藤さんは言う。(『吾輩は猫である』は 今、朝日新聞が連載中なので、私は毎朝楽しみに読んでいる。今まで何度か、 読み切ろうと試みて、途中で放り出していたが、連載というのは毎日が短いの がめっけ物で、読むのが続いている。)

 半藤一利さんはさらに、晩年の鏡子夫人と何回か話をしたことがあるそうで、 こう書いている。 「娘時代から自由に生きてきた名残りをそのまま残して、 親分肌の、太ッ腹の、実に気さくな人であった。思うこと、いいたいことをズ ケズケといったが、悪意はこれっぽちも感じられなかった。明治の時代の女の 忍従とはおよそ無縁、夫と堂々とやり合ったが、漱石がまたそれを許す時代離 れをした公明正大さをもっていたことは『漱石の想ひ出』を読むとよくわかる。」  「そして鏡子夫人からみれば、ロンドンから帰国後の漱石の精神不安定には、 ことごとに悩まされた。一時は常人にあらざるものと思いこんでもいたし、漱 石の行住坐臥はそれに値いするものでもあった。夫人は「漱石が病気であるな ら、なおさら、私のほかには支えになれるものはいない」「その覚悟で安心して ゆける」と堅く決心していた。」「これこそは夫婦間の心の底に流れている愛情 の証しといえるのではあるまいか。」

 ドラマ『夏目漱石の妻』が、とても気持よい作品に仕上がったのは、まさに そこに焦点を当てて、描いているからであった。

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