川柳、笙の笛「味噌汁は熱いか二十一世紀」2016/11/21 06:31

 川柳で思い出した、30年前の昭和61(1986)年に「川柳、笙のふえ」とい うのを「等々力短信」に書いていた。

    等々力短信 第385号 1986(昭和61)年3月15日

            川柳、笙のふえ

 癖のない人と言はれて庶務に居る(西尾栞)

 ほんとうの僕ワイシャツを着たこども(岩井三窓)

  かけていく中年あはれ勤め人(渡辺蓮夫)

 田辺聖子さんの『川柳でんでん太鼓』(講談社)で、こんな句を見つけて、ニ ヤリとした。 このところ、電車やバスに駆け込むのを、自粛している。  長い間、川柳を作るといえば、時事川柳のことだと、思ってきた。 戦争直 後に育って、新聞の川柳欄が、その手のものばかりだったからだろう。 田辺 さんの本でいえば、

  記憶なき高官アリバイよく覚え(三瓶山志学)

  大国に住みチリ紙をうばい合い(増田鬼祥)

  ウシ喰った口でクジラを可愛がり(坂本ゆたか)、の類のものだ。

 川柳きやり吟社を主宰しておられる野村圭佑氏が、父の絵のお仲間の、ご実 兄という関係で、時々拝見する『きやり』誌によって、川柳は、けっして時事 風刺だけのものでなく、人間を詠むものだということを知った。 田辺さんも、 『きやり』を、野村氏の言葉によって、古川柳の「うがち」を重んじ、現代川 柳では「その一番右側を守って」いる句風で、野村氏は絵具・和物卸商、同人 の一人市川鱗魚氏は守口大根の生産育成功労者と、本業と家庭を第一に、川柳 は「余技に徹する」生きかたが、うれしいと言っている。

  浮浪者のやおら全財産と起き(野村圭佑)

  貯ったと見えて天皇ご外遊(同)

 季節の句で、おかしいのが、

  親類の子も大学を落ちてくれ(十四)『番傘川柳一万句集』

  税務署で冗談をいう出前もち(高杉鬼遊)

 こんな風に、数句を拾っただけでも、この本で田辺さんが、そのために、太 鼓をうちならしたかった、「川柳の格調高さ、ふところの深さ、面白さ」を、伝 えられるだろう。

  靴をかえられて忽ち世が暗し(椙元紋太)

  貸す金はないがときつねとつてくれ(高橋散二)

  味噌汁は熱いか二十一世紀(田口麦彦)