橘家圓太郎の「おかめ団子」前半 ― 2016/11/06 07:45
飯倉片町の名代の団子屋、総二階建、その何代目かの娘がおかめ、可愛い。 二つ、三つの時は、誰でも可愛い。 それを越えると、だんだん親の顔に似て 来る。 怨念を背負っていく。 AKB48もやがて、見るも無残な婆さんになる。 おかめは、可愛くて、気立てもいい。 看板娘、客が沢山やって来て、店は繁 昌する。 寄席は、ビッグイベントに弱い。 リオのオリンピック、東京も、 20日間も続く。 客が来ないと、陰気な芸になる。 教育コメンテーターが家 族でオリンピックを見たらいいという。 4年に一度しか頑張らない若者と、 浅草演芸ホールには毎日頑張っているおじさんがいる。 どちらを選ぶか。
風が強い日。 久造や、何してんのかね、寝ているのか。 薬屋の看板が飛 んでった、たまには骨休め、早仕舞いしよう。 早く、早く、片付けなさい、 また気が変わるといけない。 そこへ25、6の大根売り、目元がくりくりして いる、素足に草鞋履き、籠を下ろして、一文(ひともん)売って頂きたい。 帰 って下さい、風で早仕舞いにしたので、また明日。
おこもさんかい。 そうじゃない、在から通って来る大根売り、いつも一文 買うんで。 追いかけて行って、詫びをしなさい。 留吉、お呼びして、団子 とお茶。 おっ母さんが好きで、土産に買っていく。 詫びをいいます、悪か ったね。 おっ母さんは70を回ってから、寝たり起きたりなんだが、こちら さんの団子は食べてくれる。 中目黒から来る太助といいます。 餡を付けて、 一文分は竹の皮に包んで、もう一文分、あなたに召し上がってもらいたい。 お 茶を差し上げて。 遠慮せずに。
敷紙の上に、塗り箱をひっくり返す。 売り溜めが12、3貫。 てーへんな ものですね。 普段は40貫か、50貫、お天気都合もあって、有馬様の縁日な んかだと100貫になることもある。 こちらは一日800文、1貫行くことはね え、大根と団子で大違いだ。 団子の代、置いていきます。
田んぼ道を帰る。 おっ母さんが外で待っている、柳の木につかまって。 寝 ていなさい、横になんなさいと、身体をさすってやる。 湯を浴びて来たらど うだ、庄屋さんのところで。 団子がある。 渋茶を一ぺえ。 うまいか、も う一本、いきなさるか。 痛いのは、腰か、膝か。 飯、食いなさい、炊いて あるから。 きゃらぶきで、三膳のお茶漬。
おっ母さん、寝ちまったんだ。 柔らかい蒲団を買ってやりたいな。 12、 3貫の銭って、言ってたな。 今日は、寝ちまうべえ。 寝ても12、3貫の銭 が、突っ立って見える。 駄目だ、駄目だ、眠れねえ。 ほっ被りをして、お っ母さんに手を合わせ、外へ出る。
橘家圓太郎の「おかめ団子」後半 ― 2016/11/07 06:36
おかめ団子のそば。 ウァンウァン吠えてはならねえ。 (小声で)ダイコ、 ダイコ、ダイコーーッ! わかったか、向こうへ行ってくんろ。 お天道様よ、 お月様をあっちへやってくんろ。 明るくっては、困る。 バタン、バタン、 裏木戸がおいで、おいでをしている、どうすべえ。 雨戸が一枚、スーーッと 開いて、お嬢様が出てくる。 トキ色縮緬のしごきを、松の木にかけて、首を 吊ろうとする。 何をするんだ!
(物音に気付いた主人が…)こっちへ来い。 ほんとに、お前さんは好きな んだから…。 ちがうよ。 蝋燭を一本、久造! 起きております。 夜中だ よ。 お休みなさい。 起きろ、裏の様子がおかしい。 盗っ人で。 何とか しておくれ。 けして許しませんから、長い物があれば。 それは、ゴボウだ。 しんばり棒で。 大きな声を出すな。 誰かが、娘を止めて下さっている。 大 丈夫だ。 もういいんだよ、寝なさい。 勘違いだ、逆らうなら、荷物をまと めて出てってくれ。
お嬢さんが首をくくろうとした。 何があったか存じませんが、よーーく訳 を聞いてやってくだせえ。 あなたは昼間の大根屋さん。 お門(かど)を通 りかかりまして。 デェコ、デェコ! 夜中で、家の裏ですよ。 すみません、 私は泥棒でごぜえやす。 大根屋さん。 おっ母さんが、せんべえ蒲団に寝て いまして、起きていた方が楽だと申します。 寝ても覚めても、12、3貫の銭 が立っておりやして、気が付いたら、お宅の裏庭。 あなたは、何も盗んでい ない、なら、泥棒じゃない。 娘を見かけてくれた恩人だ。 私も子供の頃、 賽銭を糸で釣った、婆さんの財布からくすねた。 婆さん、手文庫を。 これ は少ないけれど、娘の命が助かった身祝いの銭だ、5両収めて下さい。 長い ご贔屓も頂いている。 お嬢さん、親不孝をしてはならねえ。 親御様の先に 行くなんて、妙な料簡を起こすでねえぞ。 ここから入ったから、ここから出 て行きます。
おかめ、こっちへおいで。 お前がそんなに嫌がっているとは気が付かなか った。 お前がいいと思うお方が出来たら、おっ母さんに話せ。 おかめが、婿を取りたい、心に決めた人が出来た、と言う。 あの、大根屋 さんとなら、あの太助さん、命の恩人ですから。 毛むくじゃらの、山出しだ よ。 目のまわり、首のところは、真っ白。 月に照らされて、ござっちゃっ たんでしょうね、おかめがうらやましいと言う。 離れに、おっ母さんを引き 取って。 当人に聞いてみよう。
こんな結構な話はない、太助が婿に納まった。 はじかれもんの世の中に、 こんな出世話があるものか。 目のきりっ、きりっとした、愛くるしいのが、 ござっちゃって、繁昌したという、江戸名物おかめ団子のお噂でございます。
三遊亭兼好の「風呂敷」 ― 2016/11/08 06:31
結婚式の司会をするのだけれど、最近、年の差カップルが多い。 15や20 の差、お婿さんがお父さんに近いのや、上なんてのもある。 人間だけじゃな い、和歌山のアドベンチャーワールドのパンダ、16歳のラウヒン(良浜)が、 エイメイ(永明)の子を産んだけれど、エイメイは24歳、人間で言えば70歳 位なのだそうだ。 本当にパパなんでしょうかね、夜中に若いのが、白い所を 黒く塗って来たとか、隣のマレー熊が来たとか。 われわれの世界でも、70歳 位の師匠方(名前を挙げたが、ここは略す)にお子さんが生れたといえば、お めでとうを言う前に、真っ先にお弟子さんを考える。 昔から、間男は多かっ た。
兄(にい)さん、大変なの。 お咲ちゃん、履物も脱がずに、ニワトリみた いに飛び上がって来るな。 火事か。 火事なら、借家だから平気。 ウチの 亭主が、早く帰ってきたのよ。 別に、いいじゃないか。 寄合で遅くなると 言ってハマ(横浜)へ出かけた。
お湯へ行って、お茶漬さらさらとやって、蒲団を敷いて寝ようとしていた。 町内の若い衆の新さんが通ったので、ちょっと上げて馬鹿ッ話をしていたら、 さっきの雨よ。 雨戸をトントンと閉めたとたんに、ウチの人がへべれけにな って帰ってきた。 早く帰ってきちゃったのよ。 だって、新さんがいるんで すよ。 ウチの亭主は、大変なやきもち焼き、おわい屋さんとちょっと話をし ただけで、汲みっぷりに惚れたな、目が怪しい、コエに落ちたなって。 それ で新さんを三尺の押入れに隠したら、亭主はその前にどっかりと座った。 ち っとも寝やしない。 このままでは血の雨が降る、何とかして下さい、お願い します。
いつもそれだ、お前が手をつく同じ所が、へこんでるだろう。 女心の赤坂 ってんだ、待ってろ。 俺に考えがある。 ふだんからモロコシの書物を読ん でいるんだ。 春眠赤出しの味噌汁、飲めば飲むほど目が覚める。 女、三銭 の教え、三銭の価値がある。 じかにカボチャをかぶらず、おでんに靴をいれ ず。 悪女、千里を走る、いい女は走らない。 一番いいのは、キミコ(君子) は危うきに近寄らず、キミコ豹変すだな。
熊、いるかい。 兄ィ、会いたかったよ、聞いてもらいたい話がある。 カ カアに小言を言ってもらいたい。 今日は遅くなるから寝てろって言って出か けて、早く帰って来た。 途中で大雨だ、居酒屋に入ってね、へべれけになっ た。 開けろ! 開けろ! 一生懸命叩いたんだ。 ようやく開けると、お前 さん、もう帰ったのって言うじゃないか。 それで早いんだから、もう寝まし ょうよって言う。 おかしいだろ、遅いから寝ましょうよっていうんなら、わ かるよ。 だいたい、もう寝ましょうよなんて言われて、喜ぶのはいつまでで しょう。 一年かそこいら、でしょう。 早い人なら、五日か六日。 それも 緋縮緬の長襦袢を、しごきで締めて、白いうなじにおくれ毛が垂れてね。 そ れが獅子舞みたいな顔して、昆布みたいな着物で、鰹節のような手で。
実は、知ってる女が来てな、これこれこういう訳で、若い衆を三尺の押入れ に隠したら、へべれけの亭主が早く帰って来て、その前にどっかり座って動か ない、間が悪いことに亭主、大変なやきもち焼きだってんだ、どうにかしてく れって頼まれた。 それは、いくら兄ィでも無理だと思う。 風呂敷を広げて な、こうやって掛けたら、どうかと思うんだ。 どうだ、見えないだろう。 見 えない。 押入れを開けて、早く出ろ、って言ってやる。 礼はいいから、早 く行け、ってな。 下駄間違えんな、って言うな。
こればかりは、いくら兄ィでも、逃がすことは出来ねえ、と思うよ。
小三治「お化け長屋」のマクラ「落語家」と怪談噺 ― 2016/11/09 06:15
小三治、うつむいて出て来る。 落語家の〇〇さんと、紹介される。 今さ ら、始まったことじゃない。 落語家というのに、何か、ひっかかる。 何で かって言われると、困るが…。 雑誌は、噺家、咄家。 この頃はどうでもい い。 20年から30年前、50代から離れようという頃は、いやだった。 落語 家って、落語家みたいな人ですよ。 いつごろから、言い始めたのか。 以前 は噺家って、呼ばれてた。 いいですけど、よくない。 滑稽な話をやるから 落語家。 いろんな話をするから噺家。 いろんな話がある、芝居噺は、芝居 好きの人が出たり、芝居でしくじったり、芝居がからむ話。 人情話は、好き な人が多く、涙なしで聴けない。 客席に涙がなくて、噺家だけが涙ってこと もある。
怪談噺は、夏のものだが、冬の方が怖いって、お寺の坊さんに聞いた、知っ てるのは永六輔さん位だが…。 寄席は十日、十五日の興行だが、十五日間、 トリが長編の怪談噺をやっていた。 第一話から第二話へ移るところの挨拶は、 怖い顔で「はて、恐ろしき執念じゃなあ」といって、パッと明るくなって、顔 がふつうに変わり「また、明日」。 子供が一番前で、舞台の上に首をのせてい る。 毎日だから、「はて、恐ろしき」のところで、「執念だろ」って言う。 「妄 念じゃなあ」。 次の日は「はて、恐ろしき」、「妄念だろ」。 三日目、「はて、 恐ろしき」、「執念かい、妄念かい?」、「残念だ」。
前の林家正蔵師匠……、これ思い出さなきゃあ、よかった。 怪談噺、素話 (すばなし)じゃなくて、舞台装置を使う。 虫の音なども、チチチチ…と虫 笛、鐘の音も、ゴォーーーン。 憶えていたのは、高座に白いケブ(煙)が流 れてくる、霧。 どうしたかっていうと、ほら、あれ、水に入れるとボコボコ 出て来る。 (客席から)「ドライアイス」。 そうドライアイス、これからは 自分一人では出来ない。 なぜか熱湯に入れた。 違うんじゃないかと思いま すが、ドライアイスに熱湯を掛けてやっていました。 危ない。 亡くなった 正楽さん、太った人で、熱いのをアルミの洗面器に入れようとして、つまずい て、アッチッチ。 熱湯が高座の正蔵師匠の所にかかって、イテテェーッ。 面 白いところではないけれど、あんな面白いことはなかった。
釈台は、上がガラス張りの、怪談用。 ランプが四つついている、赤、青、黄、 乳白色。 自由に色が変えられる。 正蔵師匠がやっている。 「その時、コ ウエツが…」で、真の闇になる。 怯えた客のそばに、幽霊が出る。 前座で、 お化けに合いそうな体形なのがやる。 キャーーッと、女の声。 女の人に限 る、男はダメ、殴るから。 女は跳ねのける人と、抱きつく人がいる。 長年 やっているから、わかる。 そこから驚きの輪が広がる。 やがて気づいて、 ウフフ、ウフフと、笑いが場内に広がることになる。
小三治「お化け長屋」の本篇 ― 2016/11/10 06:28
おーい、ちょいと杢さん、家主が何か言ってんの、聞いた? 誰だ、空き家 に物を放り込んだ者は、出て来いって。 古株の杢さんが、一言言っておくれ よ。 店賃が四つも溜まっているんで、言いにくい。 これから長屋の物置に 使っちゃおうじゃないか。 重宝だ、有難いよ、家が広く使える。 物干竿を、 夕立なんかに、タッタカ、あの家に入れとくんだ。 そのことで、考えた。 貸 家について聞きに来る奴がいたら、俺んとこに来るように、言ってくれ。 差 配とかなんとかいうことにして、帰しちゃうから。
ごめん下さいまし、けっこうな貸家のことで伺いたい。 そのことはね、待 ってました。 家主は遠方なんで、差配といったような者がいる。 突き当り の、四ツ目垣の壊れた家が、古狸の杢兵衛さん、差配のようなことをやってい るから、あそこへ。
こちらは、古狸の杢兵衛さんのお宅ですか。 陰で言われているのは知って いたが、面と向かって言われたことはなかった。 庭がついて、日当りがいい、 敷金、前家賃なんかは、どんなことで。 お預かりするだけなので、要りませ ん。 店賃も、払おうと思えば払ってもいいけれど、要らない。 様子がわか りません。 ワケがありまして、どうぞこちらへお上がりを。
今を去ること、三年ほど前、32、3の後家さんが住んでおりました。 当人 は物堅い人でしたが、ちょうど二百十日の前後に、泥棒が入りました。 荷物 を背負って、表へ出ようとして、おかみさんの寝姿にムラムラときた。 懐に 手を入れた。 泥棒という声を出さなければよかったんだが、髪の毛をつかん で引き寄せ、呑んでいた刃物で一刺し。 いわゆるこれが致命傷。 荷物を背 負って随徳寺。 あたり一面、血の海だ。 長屋中で弔い出して、すっかり掃 除をして、札を貼ると、越して来る。 三、四日して、雨の降る晩に…。 家 賃の要らないワケがわかりかけてきました。 遠寺の鐘が、陰に籠って、ゴォ ーーン。 ちょっと、急ぐ用がありますんで。 障子がツ、ツ、ツと、開きま す。 お話、止めて下さい(と、泣く)。 ケタケタケタって、笑います。 あ なた、よく越して来たね。 ギャオーッ! がま口、落しやがった。
濡れ雑巾で、押してやったんだ。 俺にやったって、しようがない。 がま 口、二人で寿司かなんかつまもう。 静岡の親戚からもらったいいお茶がある。
ちょっくら、ものを聞くがね。 家主は遠方で。 外国か? 日本にいる。 古狸の杢兵衛さんが差配で。 だらしのねえ野郎だな。 何年住んでる。 十 九年。 住み過ぎだよ。 月が替わると、コレが来る。 いい女だよ。
いるか、タノモク(狸杢)、どんな間取りだ。 2畳、4畳半、6畳。 ふて えことを言うと、引っ叩くぞ。 店賃要らねえ、はっきりしなよ。 それだけ のワケがある。 わかってるよ、お化けかなんか出るんだろ。 こちらへご案 内を。 変な手つきをしやがって。 今を去ること、三年ほど前。 三年前な ら三年前と、ずばり言え。 てきぱきやれ。 泥棒…、俺がいたら、つかみ殺 してやる。 懐に手を入れた。 前へ出ないで。 この野郎、てめえやったな、 手つきがうまい。 そうじゃないかと、お話をしただけで。 泣くことはねえ。 遠寺の鐘が、陰に籠って、ゴォーーン。 障子がツ、ツ、ツと、開く。 夜中 に独りでに開くのか、便利だな、俺は便所に行くから。 お化けがケタケタケ タって笑うのか、愛嬌がある。 どうした、濡れ雑巾なんか出しやがって、ふ んだくって、顔をふいてやろう。 そんだけか、すぐ俺、荷物持って来るから、 掃除しとけ。
しかたがない、二人で店賃出そう。 あれ、さっきのがま口、持ってっちゃ った。
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