橘家文蔵の「子は鎹」後半2016/12/04 06:53

 おっ母さん、ただいま。 どこで遊んでたんだい、早く上がって。 糸を巻 くから、手伝って、手を出して。 お前の好きな蓮根のきんぴら炊いてんだか ら。 二本、洟出して、かみな。 かみなって、手がふさがっている。 何か、 出て来たよ、お足だ、50銭じゃないか。 あたいのお足、もらったの。 誰に。  知らないおじさん。 50銭どうしたか、言わないかい、外を締めてらっしゃい、 こっちへおいで、怒ってないから。 何てさもしい料簡を出しちゃったんだ、 どっから盗んで来たの。 盗んだんじゃない、知らないおじさんにもらったん だ、男と男の約束なんだい。 正直に言わないと、この玄能で打つよ。 そん なもので打たれたら、頭に穴が空いちゃうよ。 お父っつあんから、もらった んだい。

 何、お前、お父っつあんに会ったのかい。 何て言っていた? 今は、酒は ひとったらしも飲んでないって、半纏何枚も重ね着して立派だった。 お酒や めたの、何か私のこと言ってたかい、えっ。 二人で同じこと聞いてらあ。 一 緒にいてやれなくて、すまなかったって、泣いてた。 明日、鰻を食いに行っ て来ていいか。 ご馳走してくれるのかい、行っといで。

 翌日、亀に小ざっぱりとしたなりをさせて、行かせた。 自分も、半纏をひ っかけて、鰻屋の前をうろうろしている。 家のワルサがお邪魔してないでし ょうか。 二階にいらっしゃってますよ。 亀や、いるんだろ。 お父っつあ ん、おっ母さんが来たよ。 おいでよ、お父っつあんがいるよ。 どこのどな たと一緒なんだい。 お父っつあん、呼んだ方が、わかりやすい。 仲人に世 話を焼かせないで。

 お小遣いと、鰻のお礼も一言、申し上げたいと思いまして…。 お前さんだ ったのね。 小遣い、鰻、なんてことないよ、昨日、ばったり会ったんだ…。  小遣い、鰻、なんてことないよ、昨日、ばったり会ったんだ…。 小遣い、鰻、 なんてことないよ、昨日、ばったり会ったんだ。 お父っつあん、同じことば かり、言ってらあ。 お前ひとりで、こんなに大きく育ててくれて、並大抵の ことじゃない、礼を言う。 こんなことを言えた義理じゃないが、この子のた めに、一緒にやっていけないか、どうだろう。 お前さんは、ちっとも変って ないわね、あたしからもお願いします。 子供がいるから、またヨリが戻るん だな。 本当ですよ、この子がいたから、一緒になれる、「子は鎹」って言いま すからね。 あたいが鎹かい、道理で昨日、おっ母さんがあたいの頭を玄能で 打とうとしたんだ。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
「等々力」を漢字一字で書いて下さい?

コメント:

トラックバック