柳家権太楼の「睨み返し」前半2017/01/05 06:33

 昔の江戸っ子は、のべたらに「何とかなるよ」と言っていた。 何とかなる のは、付け商売だから。 その代わり、地元の商店街で買う。 ウチのお袋は 料理ができない、近所の小田原屋でうずら豆、でんぶなんかを買ったりしてい た。 年に二度ばかり、許さない。 お盆、<トトは山とカカは言い訳し>と いう山は大山詣り、夏のさ中に借金から逃げていた。 もう一つは、大晦日、 今は紅白を見る時代になった。 最近は誰が誰だかわからない、団体…、昔の 団体はわかった、ダークダックス、こまどり姉妹…、テレビの人に言いたい、 アップにしないで、思わずやなものを見た、消したくなる。

 <大晦日もうこれまでと首くくり> 正月明けて、去年の話されてもわから ねえよ、と言われると、取りはぐれる。

 どこ行っていたんだい、ブラブラして、お前さんがいないから、夜分までに お届けしますって、言っといたけどね。 「できましたら」と、入れろ。 ど うするつもりなんだい。

 こんばんは。 来たよ。 黙ってろ、返事するんじゃない。 薪屋でござん す。 こんばんは。 どうなってんだい、この家は…、こんばんは、薪屋でご ざんす。 開けてやろう。 いるんですか、お忙しいゅうござんす。 忙しい のは、俺んちじゃない、寒いから閉めて入って来い。 何だよ。 お門を通っ たんで。 家は路地の突き当り、掃き溜めの隣だ、どうやってお門を通ったの。  何だよ。 お勘定で。 お勘定くれんの。 取りに来たんです。 ねえよ、ね えから財布を逆さに振っても、何も出ない。 大晦日ですよ。 ないものは出 来ない、ハイ、お帰り。 子供の使いじゃないんだ、言い方があるでしょう、 嘘でもいいから、申し訳がない、春になったらすぐ届けるからとか、そう言っ てもらえれば、帰りやすい。 そんなら、今のでいいんだ。 ずうずうしいん だ、親方、往来で会うと、何でそっぽを向くの。 勘定もらうまで、ここを動 かねえから、いいね。 江戸っ子だね。 俺も、因果と同じ性分だ。 おっか あ、薪ザッポ持って来い、ゴツゴツしたやつ、向う脛かっぱらうぞ。 ウチの 薪だ、動かねえよ。 何とか早くこしらえたいが、ひと月、ふた月、三月はか かるよ、炊き出しなんかできねえ。 いいよ、もう、今日はもらったつもりで、 帰るから。 いやだよ、お前動くな、どうしても帰りたいなら、帰えれるよう にして、帰れ。 もらったか、もらわなかったか、はっきりして。 もらった よ。 何を? 勘定だよ。 いつ? 今。 どこで? この辺で、もらった。  この辺で渡した? 俺、頭悪くなったのかな、あっ、渡したな。 帰んのか、商 人は愛嬌が大事だ、ニッコリ笑って帰れ。 そうだ、まだ受け取りをもらって ない。 金8円25銭。 これぐらいの勘定、すぐに取りに来ておくれよ、俺 も忙しいんだ。 判、押してないよ。 親方、本気かい、馬鹿馬鹿しくって、 話もできない、薪屋なんかやらなきゃあよかった。 「だるま」ってのも、そ うだ、いつ終わるんだか、わかんない。 イライラして…、落ちも大したこと なかった。 お前に渡したの、たしか十円札だ、まだ釣りをもらってない。