漱石没後百年、「軍国主義」と「個人の自由」2017/02/22 06:36

 「等々力短信」第1087号(2016(平成28)年9月25日)「パソコンで聴く ラジオ」に書いた「らじる★らじるNHKネットラジオ」で、いろいろ聴いて いる。

http://kbaba.asablo.jp/blog/2016/09/25/8200167

「文化講演会」では、小森陽一東大大学院総合文化研究科教授の『没後百年 に読みなおす夏目漱石』(2016年10月20日・学士会午餐会での講演)を聴い た。

 2016年は漱石没後百年、2017年は漱石生誕百五十年に当たる。 漱石がその12 月9日に亡くなる1916(大正5)年、1月1日の東京朝日新聞に第一回を載せ たエッセイ『点頭録』から、話は始まる。 『点頭録』の二大テーマは「軍国 主義」と「トライチケ」、時は1914年7月に始まった第一次世界大戦の真最中 である。 トライチケ(トライチュケ)はドイツの歴史家・政治学者、権力国 家思想を鼓吹し、ビスマルクがプロイセンで「強制徴兵制」を取り北ドイツ同 盟を中心として普仏戦争に勝利してドイツ帝国を築く(1871年)、そのイデオ ロギー的柱となった人物だ。 ある人に欧州大戦(第一次世界大戦)について の感想を求められた漱石は、それは「軍国主義」の未来の問題に他ならないと して、ドイツによって代表される「軍国主義」が、多年英仏において培養され た「個人の自由」を破壊し去るだろうか、「軍国主義」と「個人の自由」のどち らが勝つのか、ということが重大な関心であるとした。

「軍国主義」の要(かなめ)にあるのが、「強制徴兵制」である。 ところが 「個人の自由」を長年、人間の一番大事なものと考えてきたイギリスの議会は 105対403で「強制徴兵制」案を可決してしまった。 ギッシングを引き合い に出し、どれだけイギリスの人たちが、「個人の自由」を他人に奪われ、何事か をむりやり強制されることを嫌がっていたか、それはイギリス人の天性のよう なものだったのに…。 それはどういうことか、ドイツが真っ向から振りかざ してくる「軍国主義」の前に、現に非常な変化が英国民の頭の内に起ったとい うことで、「軍国主義」の勝利と見るほかない。 戦争が片付かない内に、イギ リスはもうドイツに負けたと評してもよいものである。

 漱石はそういったが、漱石の没後、アメリカが参戦したことで、英仏連合軍 が第一次世界大戦に勝利し、ドイツは莫大な戦争賠償金を課せられ、それに対 するドイツ国民の不満をヒットラーが束ねて台頭し、第二次世界大戦へと流れ る。 そのドイツと、日本とイタリアは枢軸国となって戦って、敗れた歴史を、 われわれは知っている。 だが漱石が人生の最後に予告した「軍国主義」と「個 人の自由」の問題の真意を、改めて考えてみたいと、と小森陽一教授は話を進 める。(つづく)

コメント

_ 佐野洋子 ― 2017/02/23 07:39

大学時代に漱石研究者の教授に近代文学研究講義(内容が漱石)を受けてから、漱石が何となく身近になり難しい明暗を一生懸命読んだ事をふと思い出しました。
いままで気がつきませでしたが、貴ブログを読んいて漱石没日が12月9日で私の父親の没日と同日であることに気づきました。ソレガドウシタ⁈ではありますが(笑)
ちょっとビックリしました。

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