江戸川乱歩の『パノラマ島奇談』（後半） ― 2017/02/28 06:34
菰田源三郎となった人見廣介は、床を離れることができるようになると、菰 田家の事業を見て回ることにする。 やがて目立たぬ株券から資産を密かに処 分して資金を作り、夢想境実現の計画にとりかかる。 Ｍ県Ｓ郡の南端にある 「沖の島」を買い、画家、彫刻家、造園技師、土木技師、建築技師、職人、土 工、さらには小間使いとも女中ともつかぬ若い女たちを沢山雇い入れる。 お びただしい樹木、花卉、石材、ガラス板、セメント、鉄材が運び込まれた。
源三郎となった廣介の誤算は、なるべく接触することを避けている千代子の 魅力に、次第に深く囚われていくことだった。 千代子もまた、以前と違う源 三郎の建設事業への情熱に、違和感を持ちつつも、惹かれるものがあった。 互 いに蠱惑、しびれるような、耐えがたき思慕の情を感じるようになっていく。 そして廣介は完成間近の祝宴で酔い潰れ、つい油断して、介抱された千代子に、 何かを感づかれてしまう。
廣介は、妻を殺すことにして、パノラマ島の案内に連れ出す。 モーターボ ートで島近くのブイに降りると、海底のガラス張りのトンネルに続いていた。 美しい海底に、海草や珊瑚が揺らぎ、蛸や魚が泳ぎ、人魚のような若い裸女が 迎えて、笑いかける。 トンネルを抜けて上陸すると、渓谷が広がり、二羽の 大きな白鳥が廣介と千代子を乗せて、進む。 渓谷の奥には、白い階段が見え、 その高さに千代子は登れないと言うが、廣介が手を引いて登ると、頂上には森 が広がっていた。 今度は驢馬に乗って、森の中を進む。 暗い森を抜けると、 陽炎がゆらめく広大な芝原があって、とても小さな島の中とは思えない。 千 代子が「私の頭は、どうかしたのでしょうか」というと、廣介は「この島の旅 人は、いつでも、一つの世界から、新しい世界へとひろがるのだよ。建物の中 にも世界がある。建物の外にも世界がある」と。 かつて廣介が東京で好んだ 見たパノラマを発展させ、いくつかのパノラマ世界を、理想郷として実現して いるのだった。
千代子は、恋人のあとを夢見ごこちで進む。 アダムとイブのような裸の男 と女たちが追い駆けっこをしている。 花園では一組の裸女たちが花の蓮台と なって、廣介と千代子を乗せて行く。 噴水のある池があって、湯が滝のよう に流れ落ちて来ており、ガラス張りのトンネルで見た人魚たちが遊んでいる。 池に入ると、いつの間にか、千代子も着物を脱いで、裸になっていた。 たえ なる香気と、暖かい湯が気持ちよい。
もう、帰りたいという千代子に、廣介は、まだ見せたいものがある、と言う。 花火であった。 千代子は、本音を洩らし、疑いを口にする。
廣介は千代子を殺すのだろうか。 廣介の秘密と犯罪は暴かれるのだろうか。 その結論は、「朗読」を聴くか、本か青空文庫で、お読み下さい。
小人閑居日記 2017年2月 INDEX ― 2017/02/28 08:36
7307 柳家喬の字の「動物園の虎」＜小人閑居日記 2017.2.2.＞
7308 三遊亭歌奴の「鼓ヶ滝」＜小人閑居日記 2017.2.3.＞
7309 入船亭扇辰の「雪とん」前半＜小人閑居日記 2017.2.4.＞
7310 入船亭扇辰の「雪とん」後半＜小人閑居日記 2017.2.5.＞
7311 柳亭左龍の「羽織の遊び」＜小人閑居日記 2017.2.6.＞
7312 柳亭市馬の「三軒長屋」前半＜小人閑居日記 2017.2.7.＞
7313 柳亭市馬の「三軒長屋」後半＜小人閑居日記 2017.2.8.＞
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7324 藤沢周平直木賞『暗殺の年輪』（中）＜小人閑居日記 2017.2.18.＞
7325 藤沢周平直木賞『暗殺の年輪』（下）＜小人閑居日記 2017.2.19.＞
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7334 江戸川乱歩の『パノラマ島奇談』（前半）＜小人閑居日記 2017.2.27.＞
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