柳家喬太郎の三遊亭圓朝作「縁切榎」前半2017/04/06 07:08

 江戸から明治にかけて、いろんなものが変わった。 士族の商法というが、 中には商才のある人もいる。 旗本の次男坊で野呂井照雄、何となく仕事をし ている。 古道具屋の半六夫婦の所にやって来る。 野呂井に、半六は「女の 子で忙しいんでしょう」、女房は「本当におすけべで」と言う。 野呂井は、心 痛で、相談に来た、と。 私も三十五、親に身を固めろと言われるので、困っ ちゃう。 浪花町(日本橋元吉原)の小いよは芸者、小股の切れ上がったいい 女。 深い仲になって、末を誓うようになった。 懐都合のつかない時、小い よが都合してくれることもある。 六軒堀(深川)の隣のお嬢、おとめ、女中 と二人で暮らしている、本庄彦兵衛の娘だ。 月々入るものがあって裕福、家 に相談に来ている内に、いい仲になった。 弱っているんですよ、どっちにし たらいいかと。

 半六は、しようがない死んでしまえと言い、女房は末々のことを考えると、 お堅い方がよろしいか、と。 お嬢のおとめは、ちょいと窮屈なところもある。  小いよは芸者だから、面白いところがあり、浮気なところもある。 六軒堀か、 浪花町か、どちらにしようか。 世帯を持つなんて、つまらないことで、堅い 方がよござんすよ、遊ぶんじゃない。

 情が深い、小いよの虜(とりこ)になったら……、そうだ、六軒堀にしよう。  はい、ごめんよ。 まあ、旦那じゃあありませんか、姐さん、旦那が見えまし たよ。 茶柱が立ったのよ、今朝、嬉しい。 一昨日の晩は、どうしたんです よ。 今日来たのは、お前に話がしたくてね。 常磐屋に甘鯛のいいのがあっ て、蒸し鯛にしますから。 旦那に、ねんねこを縫いました、いい緞子(どん す)があったんで、ほら、どう。 温ったかいね。 お気に召さないの? お 前に後ろから抱かれているようだよ。 にこにこ嬉しそうに見ているから(言 い出せない)。 ちょいと、私は、出てきますよ。 ワーーッ、切れない、小い よ、可愛らしかったね。

 六軒堀。 お嬢様、殿様がお出でになりましたよ。 おとめはすらり、すら りと、お出まし。 あなた、よくお出でになりました。 一昨日は、すぐにお 帰りになって。 ご膳を用意いたしますから、今宵はごゆるりとなさって、お 泊りを。 亡き父が拝受いたしました、重徳院様の陣羽織を、袷の綿入れにし てみました。 父の形見、温ったこうございますよ。 物がよくて、温ったか いよ。 ひと針、ひと針、思いを込めました、私と思召して、お召し下さい。  ごめんなさい、ちょっと私は出て来ますよ。 品があって、可愛いったら、あ りゃあしない、切れない。 小いよを、切ろう。