柳家喬太郎の三遊亭圓朝作「縁切榎」後半2017/04/07 07:19

 旦那、すごい顔をして、どうなさったんですか。 今、甘鯛を蒸し直します から。 顔を見ると、言えなくなる、見てないで、言おう。 下から見るのは、 止めてくれないかな。 心を鬼にして言いますが…、照雄さん、身を立てろと 言われている。 それには、わが身をきれいにしておかなくてはいけない。 お 前には、いろいろ情をかけてもらっているのだが……、そのあたり忖度(そん たく)しておくれでないか。(拍手) 大方察しは付きましたよ、旦那、あなた よかったわねえ、私のようなものが付いていちゃあ…、私もこういう稼業です から、きっぱりと。 わかってくれるかい。 私も、こういう稼業ですから。  あなたがいたから、つらい座敷にも出られた、この稼業から足を洗いますよ、 桐生のそばに伯母がいて、機織り女になります。 一つだけ、わがままを言わ せて下さい、真冬のものだけは私が機を織りますから、年に二枚だけは着物を 拵えて下さいな。 切れない…、今のは冗談だ。 嘘や冗談で、こういうこと が言えるのでしょうか。 ちょっと、外へ出て来る。 切れないよ、話の仕方 がうまい。

 お嬢や、おとめさん、実は身を立てることになって…。 聞いてますよ、は い、はい、はい。 それはそれで、身をきれいにすることになった。 私は旧 弊な女ですから、貞女二夫にまみえずと申します、どうなろうと私の勝手、幼 い頃剣難の相があると言われました、父の形見の刀があるので、自害致します。  冗談なんだよ、こんな遊びがあるんだ。

 半六さん、駄目だ、二人とも情が深くて。 だから、死んでしまえと言った でしょう、勝手にしなさい。 神頼みなら、板橋に縁切榎というのがある。 焼 けたってことだが、まだ残っているらしい。 行って、削って、煎じて飲めば、 縁が切れるそうだ。 迷信に決まっているけれど、行ってみることにするか。

 板橋本町の縁切榎、今でも商店街の中にあるそうで…。 おばあさん、お茶 を一杯、野呂井照雄が茶店でお茶を飲んでいると、一台の車がついて、出てき たのは、小いよ。 何で、お前がここに…。 また一台、車がきた。 出てき たのは、お嬢。 もう、なんにも言うまい。 私を自分のものにしてくれるよ うにと、神頼みに来てくれたんだね。 二人、口を揃えて、いいえ、あなたと 縁を切りたいから。