桂文治の「二十四孝」後半2017/05/05 06:49

 郭王は、母親に嫁の乳を飲ませようとして、子供を山に埋めに行く。 鍬に カチッと金の釜が当たった。 お上に届けると、扶持まで頂いて、親孝行が出 来たという、親孝行の徳が天の感ずる処となったんだ。

 呉猛は、年老いた父親を介護していたが、蚊帳がない、貧民でな。 貧民?  貧乏だ。 貧乏がヒンミンなら、金持はツクツクボウシか。 蚊帳がないから、 父親が蚊に食われないように、自分の体に酒を塗って、我の血を吸え、と。 唐 土中の蚊が、パラーリララ、パラーリララ。 その晩は、一匹も蚊が出なかっ た。 親孝行の徳が天の感ずる処となったんだろ、ワーーーッ。 うるせえよ。  二階の壁へ酒を吹き付ければいいのに。 蚊が全部、二階に上がったところで、 梯子を取る。

 親孝行をすれば、青緡(ざし)五貫文のご褒美が出る。 月末の小遣いをや れる。 寄席や鰻屋ぐらい行ける。 国立小劇場の定連席券まで買える。 看 板を立てるか、「親孝行株式会社」。 家に帰って、狸ババアに「母上」って、 料簡入れ替えてやってくるよ。

 オッカア、今、帰ったよ。 母上は、家か? 奥にいるよ。 隅っこの方に いたな、小さくなった、しなびたな、母上。 何だよ。 鯉が食いたいだろ?  泥臭いから嫌いだ。 筍は? 歯が悪いから食えない。 妨害ババアだな。

 そこに行くのは半次じゃないか。 酒屋で呑んでた。 仕事はあと十日で終 わる、終わってから呑め。 五合引っ掛けた。 お前、親不孝だぞ。 こうこ うのつけたい頃には、キュウリはなし。 さしては茄子も漬けられず。 晋の 王祥は、鯉を裏の竹藪に取りに行ったが、大雪がはらはら、金の釜を掘り当て、 蓋を取ると、鯉が一匹跳ね上がった。 家に来る子供、隣の子、山へ行って埋 めるんだ。 ちっとも、わからねえ。

 一つ、蚊でやっつけよう。 母上、寝てくれよ。 寝たくない、まだ表は明 るい。 腕に酒をプーーッとかけて、もったいねえな、呑んじまえ。

 八公や、起きなよ、仕事なんだろう。 何だ、母上。 やはり、孝行の徳、 蚊が刺さなかった。 私が、夜っぴて、扇いでいたんだよ。