柳家さん喬の「ひとり酒盛」前半2017/05/07 06:49

 鯉幟に矢車、初夏の装いでございます。 酒のみは奴豆腐にさも似たり、初 め四角で、あとはぐずぐず。 女性はキッチン・ドリンカーと洒落ているけれ ど、男はアル中、依存症。 軽い痙攣、酒を入れると止む。 次の方! 沢山 呑むんですか。 先生、たんとは呑みません、(手が大きく震えている)半分は こぼれちゃいますから。

 百薬の長というのは、効き目が早い、ストレス解消、程よく呑むのがいい。  お前さん、よしなよ、熊さんとこ行っても喧嘩になる。 およしよ、仕事もあ る、明日納めなきゃあならないものもある。 はっきり言うんだよ、嫌(いや) は、嫌と。

 上がってくれ、暇なんだろ。 忙しいんだよ。 悪かったな、わざわざ来て もらって……、帰ってくれ。 昔、可愛がっていた若い者が、大阪から来て、 いい酒を仕入れて来た。 二度と呑めないような酒だって、半分、五合くれた。  誰かと呑みてえ口なんで、留さん、お前と一緒に呑みてえと思った。 仕事は、 どうにでもなる、夜なべしてでも。 燗をしてえが、カカアは出かけてる、や ってくれるか。 あげ板の二枚目に七輪が入っている、消壺に炭がある。 い いのか、火がついたか、徳利は戸棚の右に二本、ヤカンに入れて。 友達は多 いよ、誰と呑むといったら、留さん、お前だけだ。

 ぬる燗でもいい、いい色してるね。 何、覗き込んでいるんだ。 うーん、 美味いね、ハァ。 自慢して持って来たことだけのことはあるよ。 ちょっと 辛口だ、うめえな。 呑みごこち、酔いごこちがいい。 キューーッ、うめえ な、世の中にこんな酒があるんだな。 うちの親父も好きだったが、物をなら べてな、俺を雲助酒だって言ってた。 こないだ居酒屋で、一合徳利十本、丼 に入れて、キューーッとやってた。 若え者には、あんな呑み方もあるんだ。  外へ出たら、その若い衆が電信柱によりかかって…。

 もう、燗ついたんじゃないか。 やっぱり燗酒だよ。 この湯呑に一合ぴっ たり入るんだよ。 留さん、やっぱり燗、燗酒だよ。 さっきと、ぜんぜん違 う。 アーーッ、いいねえ、自慢するだけのことはある。

 うめえかい、俺も酒が好きなんだけれど、カカアがうるせえんだ。 ウチも そうだよ。 仲間の寄合、梯子酒だよ。 電車で帰ったら、一番しめえに、俺 一人になった。 車掌に起こされた、終電、弱っちゃったな。 ウチのカカア は焼餅焼き、円タクいたんだ。 そんな遠くまで行けませんよ、弾んで下さい。  高い金払って帰った。 カカア起きていて、こんな晩くまで、どこで呑んだん だよ、高い車代払って、駅で寝てればいいって、言いやがる。 俺の身体と、 金の、どっちが大事なんだ、金か? そうだよ。 それ、燗ついてんだろ。

 俺も、呑みてえんだけど。 何だ、お前、呑んでないのか。