柳家さん喬の「ひとり酒盛」後半2017/05/08 07:06

 俺も、呑みてえんだけど。 何だ、呑んでないのか。 そこに湯呑がある。  ちょっと待った、わさわさ呑むことはない。 口の中に何か放り込みたい。 つ まみを…。 浅草海苔のいいのが、鼠入らずの左に……、缶のいいの。 入っ てない。 ハゼの佃煮、海苔の缶の所にあるだろう。 ねえ。 そうだ覚弥だ、 糠味噌ん中、掻き回して、生姜の塊もある。 しょうがないな。 よく刻んで、 包丁裁きがいいな、包丁先生なんてな。 ギュッと、絞って。 戸棚に朝顔の 鉢がある、生姜も刻んでパラパラ。 ありがとう、ありがとう、覚弥、いいな。  徳川様に献上したってな。 美味いよ。 やんねえー、やんねえー。

 なくなっちゃった。 なくなったな、お前のを貰おう。 燗がついたら、 呑めよ。 いい心持だね。 いい心持になったところで、唄の一つも歌ってく れよ。 よくないよ、お前、ぶすぶす言って、酔うと陰気になる、よくないよ。  唄の一つも、小唄、端唄なんか乙だ。 ♪からかさの骨はばらばら 紙破れて も シャンシャン 離れ離れまいぞえ シャシャシャンシャン 千鳥掛―ッ。  何で、睨んでるんの、よくないよ。 いろいろ見なきゃあ、芝居も、お半長、 ♪お半可愛や お伊勢参りの 石部の茶屋で 会ったとさ 可愛い長右衛門さ んの 岩田帯 締めたとさ エッササノ エッササノ エッササノサ。 お前、 何で、睨んでんだよ、よくねえよ。

 徳利がヤカンの中で踊ってる。 何、ぼんやりしてんだよ、何、そこ座って んだ。 泡と湯気が。 何のために、お前呼んだと思ってんだよ。 甘酒、呑 もうってんじゃないんだよ。 アチチ、熱いけど美味い。 實母散、呑もうっ てんじゃないんだよ。 煮え燗でも、美味い。 もう一本つけてくれ。 もう、 おつもりかい。 こんな煮え燗にしちゃって。 お前は、人はいいけど、ドジ、 間抜けだ。 何だ、金輪際、付き合わないからな、馬鹿!

 留さん、走っていったけど、どうしたんだい。 あいつは、酒癖が悪いんだ。