<うな重を妻に奢りて落着す>2017/05/20 07:06

 自註『本井 英集』の後半には、句会や吟行で、その句の誕生に立ち会った句 も出て来て、楽しい。 <欲得をきれいに飾り大熊手> 平成20年作 「慶 応志木高校のOB俳句会「枇杷の会」。男ばかりで「三の酉」へお参りした。勢 いに任せて悪所へ繰り込むような乱暴者はいない。」 <捩ぢあげるやうに大根 引きにけり> 平成22年作 「「夏潮」渋谷句会での兼題。教員時代、毎年、 生徒と大根を育てた。あんまり出来たので干して沢庵漬けにしたこともあっ た。」 <箱庭の触るれば回る水車かな> 平成23年作 「「夏潮」渋谷句会 は兼題だけの俳句会。「箱庭」の題詠。<箱庭の家鴨を並べかへてみし>など。 箱庭で遊ぶのと同じように俳句で遊ぶ。」

 本井英先生は昨秋、『夏潮』創刊以来の句を収めた第四句集『開落去来』(ふ らんす堂)を出版された。 その句集について、私は「等々力短信」第1088 号に「本井英句集『開落去来』」を書いた。

http://kbaba.asablo.jp/blog/2016/10/25/8235516

 その中で、「観察と写生」「ユーモアや俳味」「お人柄と人情」「意外な措辞」 「ご家族」について、私が気に入った句を32句挙げた。 今回の自註『本井 英 集』には、私が挙げた32句の内、半数に近い15句が選ばれていたのは、嬉し かった。 俳句を詠むほうは少しも上達しないけれど、選句のほうは少しは増 しになったのかと思ったのである。 ただし<冷蔵庫置けば愛の巣らしくなる >(平成21年作)を、「ご家族」を詠んだのか、お嬢さんのお宅あたりかと想 像したが、註に「「冷蔵庫」が季題であることに、やや違和感を覚えながら題詠 した。まるでテレビのドラマのようなストーリーを空想してみたら。」とあった。  短信の「短篇小説でも書けそうだ」は、当たったのかもしれないが。

 <うな重を妻に奢りて落着す> 平成24年作 「江利子は本当に良く出来 た妻だと思う。それでも偶には機嫌を損ずる。勿論こちらに落ち度があるのだ。 「うな重」は「ゴメン」のシノニムである。」 久美子さんが亡くなられた十年 後、江利子さんと再婚された。 俳句は、私小説のようなものでもある。 今 回の句集にも久美子さんを詠んだ句が沢山ある。 下種な私は、つい江利子さ んの胸中を勘繰ってしまうのだった。

 『夏潮』の創刊を準備していた頃、現役の社会人が多かった運営委員の間に は、編集の負担が大きいから、誰か雇ったらとか、月刊を諦めたらとかいう意 見もあった。 本井英先生は、断固反対、初心を貫かれた。 平成18年8月 一ヶ月、逗子のご自宅で全62回の連続俳句会「日盛会」が開催され、延べ800 人以上の参加者があった。 78頁には「この「日盛会」を支えてくれたのが、 今の家内である」とある。 座談会、対談、講演記録は、俳誌『夏潮』の一つ の柱である。 最近では11か月にわたる鈴木孝夫先生との対談「日本と西洋」 が、出色のものだった。 そのテープ起こしが、どれほど大変な作業か。 そ れは江利子さんの仕事だと聞く。 江利子さんは『夏潮』の十年も支えてこら れたのである。 今になって、本井英先生の念頭には、初めから江利子さんの 存在があったことを知る。

 <里山のおしるこ色に芽吹くかな> 平成23年 「早春、芽吹きの頃の逗 子・葉山の丘。最初に気付いたのは江利子。「漉し餡」みたいと。我が家は祖父 も父も兄も甥も製餡業を営んでいる。」

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
「等々力」を漢字一字で書いて下さい?

コメント:

トラックバック