福沢諭吉訳のアメリカ合衆国憲法2017/05/22 07:01

 19日に結論部分だけを先に出した福澤先生ウェーランド経済書講述記念講 演会、阿川尚之慶應義塾大学名誉教授の「福澤先生の訳した憲法 : 合衆国とい う国のかたち」に戻りたい。 阿川尚之さんは、福沢先生とブラウン大学第4 代学長だったフランシス・ウェーランドの肖像を背に壇上に立って、声が震え たり、気絶したりするかもしれない、と始めた。 ブラウン大学のネクタイを 締めてきていたのは、さすがである。

 福沢は『西洋事情』(初編)巻之二で、「千七百八十七年議定せる合衆国の律 例」として、アメリカ合衆国憲法を訳した。 独立宣言(「千七百七十六年第七 月四日、亜米利加十三州独立の檄文」)とペアだった。 巻之二の最初になぜア メリカ合衆国を取り上げ(オランダ、イギリス、ロシア、フランスより先に)、 憲法を訳したのかは、(1)黒船で新しい国がやって来たことで、幕末から明治 にかけて、アメリカへの関心が高かった(佐久間象山、陸奥宗光も)。 (2) アメリカは福沢が最初に行った外国、新鮮な目で見た。中津への不平・不満と、 対照的な国。福沢は、フランスにおけるトクヴィルのような人。 (3)わか りやすかったからかもしれない。

 最初の翻訳か? 違うらしい、渡辺崋山の『外国事情書』(1839年)や魏源 『海国図志』(1842年)などがあるそうだ。 翻訳は正確か? 画期的、広範 囲で、だいたい正しい。 成績を付ければAマイナス(B+だと、追放される (笑) あとで、間違っている所は言うのが慶應らしいと、細かい点を指摘し た)。 原典入手の時と場所? おそらく蕃書調所だろう。 修正第12条まで で終わっている。 合衆国の政体と憲法への評価? 直接の言葉はない。  アメリカ憲法紹介の影響? 悪い影響ではない。 福沢は後にトクヴィルの『ア メリカのデモクラシー』を参照して、『分権論』を書き、国権を政権と治権とに 分け、中央の政府が政権を、地方の人民(旧士族など)が治権をとり、相互に 助け合ってこそ、国家の安定が維持できると説いた。  福沢はアメリカが好 きだったのだろう。 自由で、才能を伸ばす文明国として…。 大学部設立の 時、教授をケンブリッジでなく、ハーバードから招いた。 4人の息子の内、3 人をアメリカに留学させた。

 福澤諭吉訳アメリカ合衆国憲法と原文の比較。

第1条第1類(1節)

国政を議定する権は合衆国の議事院に在り、議事院は上下二区に分つ。

All legislative Powers herein granted shall be vested in a Congress of the United States, which shall consist of a Senate and a House of Representatives.

第2条第1類(1節1項)

定法を施行するの権は、亜米利加合衆国大統領の手に在り。

The Executive Power shall be vested in a President of the United States of America.

修正第1条

宗旨を開くことに付き、議事院より其法則を立つることなく自由に之を許すべ し。又、事を議論し或は書を著すことを禁ずべからず。又、人民平穏に集会し て政府に愁訴すること勝手たるべし。

Congress shall make no law respecting an establishment of religion, or prohibiting the free exercise thereof ; or abridging the freedom of speech, or of the press ; or the right of the people, peaceably to assemble, and to petition the Government for a redress of grievances.

阿川尚之さんが「これ以上の訳は、日本にはない」と言った「独立宣言」の訳。

「天の人を生ずるは億兆同一轍(てつ)にて、之に付与するに動かすべからざ るの通義を以てす。即ち其共通義とは、人の自から生命を保し自由を求め幸福 を祈るの類にて、他より之を如何ともす可らざるものなり。」

“We hold these truths to be self-evident, that all men are created equal, that they are endowed by their Creator with certain unalienable Rights, that among these are Life, Liberty and pursuit of Happiness.”

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