ろべえ改メ柳家小八の「明烏」後半2017/06/07 06:29

 私は帰ります。 オウ、坊ちゃんよー、てえげえにしろ、若え血潮は流れて ねえのか、真人間になり損なうよ。 お帰りなさい。 吉原には、吉原のしき たりってものがある。 さっき入ってきたのは、鳥居じゃなくて、大門という んだ、恐い顔したおじさんが三人、何か帳面に付けていただろう。 一人で帰 ってみろ、胡散臭い奴だと、ふん縛っておくのが、吉原のしきたりだ。 帰え れ、帰えれ。 それでは、大門とやらまで、お送り願います。 冗談言っちゃ あいけねえよ、あたしたちが依怙地になりゃあ、二年だろうが三年だろうが、 居続けをするんだ。 エーーーッ。(と、泣く) 泣くことはない。

 坊っちゃん、一杯だけつきあってよ、陽気にやりましょう。 浦里という、 絶世の美人、年は十八、ああいうやさしい若旦那なら、私のほうから出てみた いという、逆のお見立て。 今日ばかりはどうにも盛り上がらない。 坊ちゃ ん、涙ポロポロこぼして、畳にのの字を書いている。 いい通夜だね、ご焼香 上げるか。 てめえ、泣くな! 泣かすんじゃないよ。 あなた方、いい年を して、他になすべきことはないんですか、道元禅師は…。

 坊っちゃん、こちらへ、花魁の部屋に参りましょう。 おばさんが、ずるず る引きずって行く、廊下がまた、よく滑る。 アッ、おっ母さん! その騒ぎ に、みんな廊下に飛び出して見送る。 まるで市中引き回し。     翌朝、おつむが痛いね。 どうだった。 来たよ、今夜は寝かさないって。 私おしっこって、行ったきり、帰って来なかった、長い小便だ、丑年(うしど し)か。 なるほど、寝かさない。 俺も振られて、待っている間、部屋ん中 あちこち探して、甘納豆を見っけちゃった。 朝の甘納豆は美味い。 行こう 行こう、帰ろうよ。 お向かいだよ、坊ちゃんは…。 真夜中に男の悲鳴が二 つ、聞こえたが…。

 次の間付きだよ。 坊ちゃん、お迎えに参りました。 ちょいと、開けます よ。 枕屏風が回してある。 どっこいしょのしょ。 花魁、悪かったな、手 こずったろう。 坊ちゃん、辛かったろ、すみません。 それが、大変けっこ うなお籠りでございました。 花魁、坊ちゃんを起こしてくれ。 ぬし、お起 きなさいましな。 えっ、坊ちゃん、起きたらどうなんです。 私は起きたい が、花魁は床の中で私の足をグッとからめて、放さない。 おい、お前、甘納 豆食ってる場合じゃないよ。 じゃあ、坊っちゃん、あなたは暇なからだだ、 ゆっくり遊んでいらっしゃい。 あっしら急ぐんで、ひと足先に帰るよ。 あ なたがた、帰れるもんなら帰ってごらんなさい、大門で縛られます。