加藤陽子教授の「日英同盟と第一次大戦参戦」2017/06/29 07:18

それに続く「日英同盟と第一次大戦参戦」<小人閑居日記 2017.2.26.>で は、小森陽一さんが「日英同盟を結んで、今いう集団的自衛権の行使から第一 次世界大戦に参戦しなければならなかった。」とした点について、加藤陽子東京 大学文学部教授の『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(朝日出版社)から 異論というか、その詳しい経緯を紹介した。 これも沼田篤良さんの『オリエ ント急行と地政学』に響き合うので、見直しておきたい。

「加藤さんは、実はイギリス側がまず、日本が日英同盟の名目で参戦するこ とに反対したと言う。 エドワード・グレイ外相が断った。 1902(明治35) 年に締結された日英同盟の目的は、「東亜およびインドの地域における全局の平 和」の確保と、「中国の独立と領土の保全」の確保にあった。 東亜、インド、 中国という地域についての安全保障の条約ということで、必ずしもドイツとの 戦争で発動されるべき条約でなかったのが、理由の第一。 また、1914(大正 3)年8月の時点では、戦争が長期化するかどうか不明だったので、当面は東 アジアの海域におけるイギリス商船の護衛くらいでいいのだから、と。」

 「だが、加藤高明(たかあき)外相に迫られたイギリスは、「日英同盟のよし みから参戦する点について対外的に説明することまでは了解した」と認める。  ただしグレイは、日本側に条件を出す。 軍事行動の範囲を「シナ海の西及び 南、ドイツの租借地である膠州湾以外には広げない。太平洋には及ぼさない」 と声明することを日本側に要求する。 このシビアな要求に、加藤外相が応じ ないでいると、イギリスは、その軍事行動の範囲で日英政府は一致したとの趣 旨を、日本に知らせず公表してしまう。」

 「なぜイギリスは、同盟を結んでいる最も重要な国である日本に対して、軍 事行動の範囲を限定する声明を出すことを要求したのか。 その答えの一つは イギリス連邦や自治領側が日本に対して抱いていた警戒感から説明できる。  オーストラリアやニュージーランドは、日本の南下を怖れていた。 日本が日 英同盟を理由に参戦したとなれば、歯止めがきかなくなって、日本は戦闘領域 の制限を超えてドイツ領を占領するだけでなく、自分たちの国にも迫ってきや しないかと怖がる。」

 「実はもう一つ理由があり、日本が日英同盟を理由に参戦してしまう場合、 グレイ外相の懸念はこちらの方が大きかった。 イギリスが極東で最も利益を 持っている場所、中国の問題だ。 中国のなかにそれぞれ勢力圏をつくってい たヨーロッパの国々、イギリスやフランスなどはヨーロッパを戦場としてドイ ツと戦っている。 その間、日本は中国に対して何らかの権益強化をやるだろ う。 おそらくドイツの勢力圏であった山東半島はとるだろう、それまではい いが、中立宣言をして、大戦に巻き込まれないようにしている中国自体の権益 の一部を、ドイツに関係するからという理由で日本の陸海軍が接収したりすれ ば、中国内部からは強い反発が起こるだろう。 日本に対する中国の反発が、 日英同盟という理由から、イギリスにまで及ぼされてはたまったものではない。  イギリスにとって最も嫌なのは、対中貿易の利益が減ることだ。 日本が中国 に対してなんらかの措置をとることで、中国で擾乱が起こることをイギリスは 警戒した。 日本のお家芸、南方の革命派と手を組んで資金を提供し、革命を 起こさせるとか、やりそうなのだ。 イギリスは、上海・香港を拠点とする中 国への貿易額が下がることが、なによりも苦痛で心配だった。」

 「1914(大正3)年7月28日、オーストリアはセルビアに宣戦布告した。  ドイツ・オーストリア対ロシアの対立が深く進行していたので、8月1日にド イツがロシアに宣戦布告すると8月4日にロシアと同盟関係にあったイギリス がドイツに宣戦布告し、世界を巻き込む戦争が始まる。 フランスもイギリス と行動をともにした。 日本は、8月23日ドイツに宣戦布告したが、参戦の仕 方はなかなか強引だった。 主役は、第二次大隈重信内閣の外相、加藤高明。  大正天皇が夏の静養中だった日光の田母沢御用邸に、夜中におしかけて行って 天皇の裁可をもらう。 学問・軍事・技術など、長らく学んできた先生にあた る国家であるドイツと戦うことについては、元老の山県有朋などにはためらい があったという。 加藤高明外相は、ずんずんすすむ。」

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