朝也改メ春風亭三朝の「蛙茶番」2017/07/03 07:24

 三朝(さんちょう)、オデコが広く、髪の毛が三角にとんがっている。 噺家 は名前と顔を覚えてというけれど、途中で名前が変わる。 15年朝也で、三朝、 梅酒屋から豆腐屋になった。 皆様の共通点は一つ、落語好きということだろ う。 凝り過ぎるとよくないけれど、凝らないとわからない。 お芝居も、自 分でやってみたくなる。 素人芝居、役でもめる。 勘平をやりたい、俺も勘 平、俺も勘平、俺は与市兵衛の婿養子、私はお軽の亭主、36人みんな勘平。 何 だこの芝居は? 勘平式だろう。

 伊勢屋の若旦那が来ない。 役もめじゃないのか。 今年はくじ引きで決め たのに。 セリフのない役、ガマガエル。 ガマガエルを、くじに入れたのか い、怒るのは当たり前だ。 うちの小僧でどうだ。 定吉、番頭さんがお呼び だ。 お前は芝居が好きだそうだな、お店の芝居に出てもらいたい。 去年、 出たいと言ったら、旦那に十年早いと叱られた。 お小遣い、来年の休みも一 日多くやろう。 そのお小遣い、番頭さんの懐から出るんですか、それとも帳 面をドガチャカするんで…。 余計なことを言うな、ガマガエルだ。 えっ、 ガマガエル、虫じゃありませんか。 いやなら出なくていい、お小遣いも来年 の休みもなしだ。 出ます。 着ぐるみを着て、きっかけを教わる。 『天竺 徳兵衛韓噺(いこくばなし)』の「忍術譲りの場」、天竺徳兵衛が赤松満祐の幽 霊から、忍術を伝授され、「デイデイ、ハライソハライソ、ドロッドロッときた ら、ピョコピョコ、ドロピョコ」と、ガマガエルに化ける場面だ。

 定吉、建具屋の半公を呼んで来てくれ、舞台番なのに来てない。 舞台番?  下手の端の半畳に座って、観客が騒ぐと制止する役だ。 半ちゃん、いますか?  半次は留守だ、いても、いねえよ。 いるじゃない。 半次の幽霊だ。 てめ えのダンツクに言ってくれ、化物の芝居はやらないって、行かないと目ん玉に 指突っ込んで掻きまわすぞ。

 あいつは只の馬鹿だ、うち一軒で飯食ってるんだ、やるってことはやる。 小 間物屋の美ィ坊に惚れて、足袋屋の看板、片っ方だけ出来て喜んでいる。 こ う言うんだ。

 往来で美ィちゃんに会ったら、建具屋の半ちゃんが人の嫌がる舞台番を引き 受けるんですって、と聞いた。 貰い物の煎餅だけれど、食え。 美ィちゃん、 ポッと頬を赤らめて、素人がおしろいを塗りたくって、ギッタンバッタン目を 剥くのより、おしろいっ気のない舞台番をやるなんて、粋で、いなせで、さす が神田っ子だって、言っていた。 来るの、来ないの? ファイナル、アンサ ー。 バカヤロ、美ィ坊がそんなこと言ったか、すぐはダメだが、行くよ。 去 年の祭の緋縮緬のふんどしを憶えているか。 縮緬、くわえて引っ張るとチリ チリ音のする、坪いくらってもんだ、質に入れて、銭がない。 入れ替え物を 入れて、出しておいでよ。 これしかないの、汚いお釜だな。

 手拭、肩に湯へ、磨いてから行く。 人の嫌がる舞台番、見せるもの見せて、 落ちを取ろうってんだ。 縮緬のしぼがなくならないように、油ッ紙にくるん で、頭にのせる。 番台で預かっておくよ。 建半、来てるよ、汚たねえケツ だ、毛が生えて、コオロギでも飼ってんのか。 美ィ坊が帰っちゃあいけない、 急いで帯を締めながら、斜っかいになって駆け出した。

 そこへ行くのは半次じゃないか。 鳶頭、見せたいものがある。 ウチの娘 を連れてきた、芝居を観たいというんで。 アッ! 着物を下ろせ。 しようが ない、帰ろうじゃないか(と、娘の手を引く)。

 何だ、美ィ坊いねえじゃないか。 大宮さん、東北線乗り換え。 錺(かざ り)屋の金さん、カザ金さん、舞台番を見ろ、上はいいから、下を見ろ。 糝 粉(しんこ)細工じゃないんだろうね。 立派なもんだ、馬がごめんと謝った。  半ちゃん! ご趣向! 日本一、大道具!

 定吉、早く出ろ。 ガマガエルは出られません、半ちゃんの股グラで青大将が狙っています。