「獺祭」杜氏を廃しデータ管理の酒造り2017/07/19 07:20

 お酒は飲まないから、お酒のことはまったく知らない。 「獺祭(だっさい)」 というお酒があって、なかなか手に入らないという噂は聞いたことがあった。  「獺祭」という言葉は知っていた。 正岡子規の居宅が「獺祭書屋」と名づけ られていて、その忌日9月19日を「獺祭忌」と(「糸瓜忌」とも)いうからだ。  「獺祭」は、カワウソ(獺)がたくさん捕った魚を食べる前に並べておく習性 を、魚を祭るのにたとえていう言葉で、転じて、詩文を作るときに、多くの参 考書をひろげちらかすこともいう。 小人閑居日記を打つパソコンの周囲も、 言わば「獺祭」状態である。

 日曜の朝、たまたまテレビで、純米大吟醸「獺祭」の生みの親、旭酒造の桜 井博志会長を見た。 TBSの「がっちりマンデー」という経済番組(加藤浩次、 進藤晶子司会)、なぜ日曜の朝にマンデーなのかと思ったら、これを参考にして 月曜からがっちり働こうという趣旨のようである。 旭酒造は山口県の岩国市 周東町獺越という山奥にある。 「獺祭」の名は、この獺越から来ている。 川 べりにある「旭富士」を出す弱小の酒蔵だったのが、今や12階建ての近代的 ビルの中に工場がある。 売上高は108億円を超え、30年前の約40倍になっ たという。 最初に純米大吟醸「獺祭」を造ったとき、地元ではまったく不評 だった、今までの安く飲める酒をつくれ、といわれた。 東京にいる山口県人 に飲んでもらったら評判になり、そこから広まってゆく。

 私が面白いと思ったのは、酒造りの常識である杜氏(とうじ)を廃して、す べてデータで管理しての酒造りに挑戦していることだ。 木造の酒蔵でなく、 ビルの工場に、快適な環境をつくり、機械化できるところは機械を入れ、0.1 度単位での温度管理を可能にした。 それで夏でも酒造りが出来る。 製造途 中で検査をしてデータを取っているのは、専門の研究員などでなく、パートの おばさんだ。 酵母と麹菌がつくるお酒を、杜氏の勘に頼るのではなく、試行 錯誤の結果であるデータの最適値に合わせて、管理し、酒造りしている。

 山田錦を原料に、玄米を精米し23%まで磨いて、白い丸い芯の精白米(デン プン)にする。 それには7日間、都合約168時間かかる。 手間をかけ、コ ストを度外視し、手抜きをしない。 そうして出来たのが「磨き二割三分 獺 祭」。 「磨き三割九分」「50」や、最高級品「磨きその先へ」などもある。  磨きが多ければ、米粉も多く出るが、その副産物のライスミルクを使ったゼリ ーが帝国ホテルで販売されているらしい。