柳家小さんの「青菜」前半2017/07/24 07:09

 黒い着物に羽織無し、灰色の袴の小さん、お暑うございます、茹だるような 暑さで。 今はエアコンをセットしておけば、涼しくなっている。 便利過ぎ るのが、不便になる。 年を取ってくると、昔の方が情緒があった。 風呂に 入って、遠くからの扇風機、風鈴の音がして、ビールを飲んで、何で巨人はこ んなになっちゃったんだろう…。

 植木屋さん、ご精が出ますね。 休んでいるんじゃない、お庭を拝見しなが ら、あの松はどうしたらいいかとか、考えているところで…。 毎日、庭に手 を入れてくれるだけで結構、水を撒くのも商売人で、夕立が降ったよう、冷た い風が来るようで。 お屋敷はいいですね、ウチは長屋のどんづまり、あっち こっちにぶつかった熱い風が来る、今夜あたり化け猫が出る。

 時に植木屋さん、ご酒はお好きかな。 酒は銭だけ呑むんで。 懐の銭みん な呑まないと気が済まない。 あなたの仕事を見ながら今、一杯やっていたと ころだ。 大阪の友人から送ってくれた柳蔭、縁側に腰掛けて、そのガラスの 猪口で、手酌でやらないか。 柳蔭、幽霊でも出そうな酒ですね。 柳蔭、焼 酎にちょいと味醂を割ったものだな。 こっちで言う、直しじゃございません か、夏場の暑気払いにいい。 よく冷えてますな。 あなたは外で仕事をして いたから、口の中に熱があって、冷たく感じるんだろう。

 時に、鯉の洗いはお好きかな。 鯉の洗い、話には聞きますが、職人ですか ら食ったことがない。 黒いかと思ったら、白いんですね。 ここまで白くす るのは、シャボンで洗うんですかね。 黒いのは皮、外套だな。 鯉が外套な ら、鰻はズボンですね。 私は鰻のシャッポ専門で。 その酢味噌をつけて。  酢味噌をたっぷりつけてと、うん、シャキシャキして、旨いですね、さっぱり している。 淡白なものだ、下に氷があって、冷やしてあるところが値打ちだ な。 わっしら、氷のかけらが、一夏に一つか二つ、口に入るかどうか。 ク チュ、クチュ、クチュ…、この氷、よく冷えてますね(頭の後ろをさかんに叩 く)。

 時に植木屋さん、菜はお好きかな。 菜のおしたし、大好物で。 取り寄せ ましょう。 わっしが、台所へ取りに行きますよ。 いいから、お座んなさい。  (手を叩き)これよ、奥や! 旦那様、お呼びでございますか。 植木屋さん は菜がお好きだというから、鰹節をかけて持ってきておくれ。 旦那様、鞍馬 から牛若丸が出でまして、菜は九郎判官。 そうか、義経にしておきなさい。  すまないね植木屋さん、菜がみんなになっていた。 誰か、お見えになったん じゃないですか。 鞍馬さんとか、牛若さんとか。 ウチの出入りの者だから 言うけれど、内緒話、隠し言葉のようなものでな。 そうなんですか、ちっと もわからない、どういうことで。 菜は食べてしまって、もうないという。 お 屋敷には、いろんな苦労があるんですね。 奥方様はごチョウエキ……、ご教 養がおありですから。 (すっかり注いで)お酒が、義経になりました。 柳 蔭でなく、普通の酒ならあるから、よかったら。 ほんの冗談で…、今日はこ れで上がらせてもらいます。 鯉の洗いを、もう一つ頂いて…、ごっそう様で した。

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