柳家小さんの「青菜」後半2017/07/25 07:06

 驚いたねえ、ウチのカカアなんか、頭を下げたことなんか、一度もないよ。  おや、今日は早仕舞かい。 煙草すって忙しいんだ、上がる前に決めてよ、湯 に行くか、おまんま食うか。 先に飯だ。 今日は尾頭付だよ。 何を言って やがんでえ、鰯の塩焼きじゃねえか。 頭、取っちゃえ。 青魚は栄養がある んだよ、頭と骨を食うと風邪を引かない、近所の犬なんか、風邪を引かないだ ろう。 亭主と犬を一緒にするのか。 いい犬なら、高く売れるよ。

 お屋敷で、柳蔭と鯉の洗いをご馳走になった。 鯉の黒いのは皮だそうで、 白いのを酢味噌につけて食う、旨いんだ。 菜のおしたしがなくてな、奥様が 手をついて、こういう形で、旦那様、って言ったんだ。 そういう蛙が出ると、 雨が降る。 お前、旦那様、なんて言えまい。 右や左の旦那様、乞食だって 知ってるよ。 鞍馬から牛若丸が出でまして、菜は九郎判官。 火傷のまじな いかい。 ラクライの折だ。 ラクライ? 人が来るやつだ。 来客だろ。 そ の来客の折、お屋敷の隠し言葉だ。 お前には言えまい。 言えるよ、言うよ、 お屋敷に住まわせろ。 今度、何かあったら、言ってみな。 元はカゾク様じ ゃないか。 いいのが来た、建具屋の半公だ。 お前は絹張の渋団扇を持って、 次の間はないから、押入れに入ってろ。

 だいぶ、ご精が出ますね。 ご精なんか出ねえ、昼寝して湯へ行ってきたと ころだ。 時に、植木屋さん。 植木屋はお前だ、どうかしちゃったんじゃな いのか。 あなた、ご酒は召し上がるか。 よく知ってるじゃあねえか。 ご 酒をご馳走しよう。 エッ、お前には、いつもたかられている。 その廊下に 腰を掛けて。 廊下じゃねえ、板の間だ。 大阪の友人が送ってくれた柳蔭だ。  何だ、あたり前の酒じゃないか。 あなたは外で仕事をしていたから、口の中 に熱があって、冷たく感じるんだろう。 湯に入って、さっぱりしたところだ。  第一、お燗してあるよ。 あなた、鯉の洗いはお好きか。 手間取りが贅沢な もの食っているんだな。 何だ、鰯の塩焼きじゃないか。 鰯はすきだ、うん、 旨い、脂がのってる。 どちらかと言うと、淡白なものだな、下に氷が敷いて ある。 時に、植木屋さん、菜はお好きかな。 俺は建具屋だ、菜は嫌いだよ。  浮世の義理だ、ちょいとは好きだと言ってくれ、ここに取り寄せる。

 ウッ、オウ、パン、パン…、奥や、奥や。 おかみさん、いねえのかと思っ たら、押入れに隠れていたのか、汗だくじゃねえか。 二人で、何やってんだ。  旦那様、鞍馬から牛若丸が出でまして、菜は九郎判官義経。 む、む、む、弁 慶にしておきな。

 落語研究会の最初から先代の小さんをずっと聴いていたから、生意気を言わ せてもらうが、小さん、明るくなって、テンポもよくなった。 一昨年2015 年の7月10日の第565回で小三治が「青菜」をかけ、私は「なんとも可笑し くて、長く記憶に残る高座になった。」と書いた。 小さんが敢えて「青菜」を かけたのには、あの小三治の高座を意識するところがあったのだろうかと思っ た。