橘家文蔵の「試し酒」後半2017/10/07 07:10

 注いでくだせえ。 聞きしに勝るね、一番好きなのは酒か? 金だ。 金を 貯めて、田畑でも買おうというのかな? 金を貯めて、酒を飲む。

おら、何だか愉快になってきただ。 愉快になってくれて、有難う。 どう 転んでも、おらの勝ちのようだ。 どでえつの一つも出すか、文句だけだが…。  <お酒飲む人花ならつぼみ、今日もさけさけ明日も酒>なんて、うめえことを いうなあ(と、飲み)。 <明けの鐘ごんと鳴る頃三日月形の、櫛が落ちてる四 畳半>、なんの事だか知んねえけども(と、飲む)。 <水に油を落とせば開く、 おとしてつぼまる尻の穴>なんてね(と、飲み)、<酒は米の水、水戸様は丸に 水、意見する奴ァ向う見ず(水)>なんてね、ハッハッハ、(と、陽気に大声に なって、飲み干す)。 注いでくだせえ。 三升、飲んじゃった。

昔、料亭で酒仙会があって、大酒飲みが競争したっていうが、三升、ペロッ と飲んじゃって、勢いが止まらないね。 でも、下駄を履くまでわからない、 よくあるんだよ、蕎麦や饅頭の大食いで、最後に駄目になるのが…。

四升、飲んじゃったよ。 注いでくだせえ、おら酔ったかな、お前の顔が可 愛くなった。 これ一杯か、一気に片付けてやる。 大丈夫だよ、オッ、ハッ ハッ、ゴクッゴクッ、コラコラ! 五杯、飲んだよ、ご苦労さん。 小遣いを やろう。 一つ、聞きたいことがある。 さっき表で考えごとをしたな、まじ ないをしたか、薬草でも飲んだのか、何をしてきた。 ワッハッハ、あれは何 でもねえだよ、おら生れてこのかた五升と決まった酒飲んだことがねえだ。 心 配でなんねえから、表の酒屋へ行って、試しに五升飲んできた。