「枇杷の会」洗足池吟行句会2017/11/01 07:23

「枇杷の会」洗足池吟行句会で、私が選句したのは、つぎの七句だった。 なんと、本井英先生のお句を五句も採っていた。

うそ寒のスワンボートに漢(をとこ)ひとり     英

浮かび出しキンクロハジロ目ばたきせぬ     英

鵯(ひよどり)は不平不満を述べつらね      英

蒲の穂の崩るることを本懐に            英

ここいらで池も半周薄紅葉              英

訪れる人なき鎮守小鳥来る             孝治

やゝ寒も吟行八人また愉し             善兵衛

 私の結果は、<細波に銀杏黄葉の映りをり>を英先生、<浮く鴨の風の流れ に逆らはず>を英先生、善兵衛さん、秋好(あきのこのむ)さん、<デコデコ の木肌の欅うすもみぢ>を英先生、<名にし負ふいろはもみぢはまだ青く>を 孝治さん、善兵衛さん、秋好さん、<そぞろ寒人の気配に鯉の寄る>を英先生、 一舟さん、伸次さん、たからさんが採ってくれた。 英先生4句、互選8票、 計12票だった。 英先生ダントツの18票、孝治さん9票の間にはさまって、 12票は2位、珍事と言わねばなるまい。

 英先生の選評。 <細波に銀杏黄葉の映りをり>…何でもない句だが、細波 は木の形を映していない、色だけが見える、洒落た景、問いを発している。 < 浮く鴨の風の流れに逆らはず>…いい句、浮寝鳥という季題があるが、鴨はじ りじり流れる、リズム感、張りのある調べがある、調子が張っている。 <デ コデコの木肌の欅うすもみぢ>…「デコデコ」は読む人によって変わる、ささ くれ立った、幽霊のような木、樹齢百年、百五十年、秋の気配も深まって、老 木の季節の推移に反応する大人ぶり。 <そぞろ寒人の気配に鯉の寄る>…日 本の鯉は幸せな鯉だ、日本人は鯉を愛する民族、秋の今頃の寒さ、「身に入む」 「うそ寒」「やや寒」の感じ。

末盛千枝子さん「3.11絵本プロジェクトいわて」の話2017/11/02 07:13

 30日の仲間内の情報交流会に、遠路はるばる岩手県八幡平から末盛千枝子さ んに来て頂いて、話をしてもらった。 絵本編集者、「3.11絵本プロジェクト いわて」代表を務めている。 まど・みちおさんの詩を皇后様が選・英訳され た『どうぶつたち THE ANIMALS』や、皇后様のご講演をまとめた『橋をか ける 子供時代の読書の思い出』など、話題作をつぎつぎ出版し、テレビの「皇 室アルバム」などでは、皇后様の友人として登場、コメントを述べているのを 見かける。 私は「友達の友達は皇后陛下」と僭称しているが、同期卒業の学 生時代には知らなくて、初期のすえもりブックスの絵本にファンレターを出し て以来のお付き合いだ。

 2011年3月11日に東日本大震災が発生すると、末盛千枝子さんのもとには 被災地の子供たちを心配する声が世界中から届いたという。 3月24日には末 盛さんの提案で、南部屋敷と蔵の盛岡市中央公民館を拠点として、被災地の子 供たちに絵本を届けるプロジェクト「3.11絵本プロジェクトいわて」が始まる。  2、3週間の内に全国から本が届き始め、23万冊が集まった。 エリック・カ ールの『はらぺこあおむし』などは沢山来た、5百何十冊も。 集まった寄付 金や年賀はがきの助成で、6台の運転席と助手席以外は絵本が積める本棚にな っている「えほんカー」が完成し、四輪駆動の軽トラック5台は、大槌町、釜 石市、普代村、野田村、大船渡市の読み聞かせグループに寄贈された。

 末盛さんは、その前に見て来た人から「何も言えない」と聞いて、4月4日 に現地に入った。 保育園、避難所などに絵本を届けて、読み聞かせをした。  宮古では、目も向けられない状況の瓦礫の中を子供たちがやって来る。 好き な本を持って行っていいと言うと、一人の男の子が最後まで探していた。 い ろいろな絵本を見せても、「違うの」「違うの」と言う。 津波で流された自分 のお気に入りの本を探しているのだ。 『ちびくろさんぼ』だった。 最後に、 それは見つかった。 本の好きな者同士、その気持はよくわかる。

 山田は、海岸沿いのオイルタンクが倒れて、海が燃え、悲惨な状態になって いた。 一人の若いお坊さんが、雪が舞う中、裸足に草履履きで、角、角でお 経を上げて歩いて行くのを見た。 『ビルマの竪琴』の水島上等兵のようだっ た。

 皇后様は「もう現地に入ったのね」とおっしゃり、絵本の原画を飾れないか と提案された。 しばらく経って、公民館の展示室がきれいになってから、展 覧会を開催した(2013年3月から5月まで、原画展)。 震災で、皇后様とは 前より頻繁に連絡するようになっている。 皇后様は絵本プロジェクトに、最 初はお手元に二冊ある本の中から一冊ずつ、その後は、折々にその時期にふさ わしい本を何回かにわけて送って下さった。 それはボランティアの人たちへ の心をこめたエールだと末盛さんには感じられ、嬉しかったという。

皇后様と末盛千枝子さん2017/11/03 06:39

 皇后様は、1998年のIBBY(国際児童図書評議会)ニューデリー世界大会で 基調講演をして下さる予定だったのが、その矢先にインドが核実験をしたので、 政府は皇后様にインドへ行って頂くわけにはいかないと決定した。 IBBY副 会長の島多代さん(松本正夫先生のお嬢様)と末盛さんは、ビデオによる講演 という方法もあるとNHKなどに働きかけ、それを実現する。 収録を二日後 に控えた朝、原稿を校閲したディレクターの若い女性が、お話のキー・ポイン トに疑問があると言ってきた。 新美南吉の『でんでん虫のかなしみ』は、皇 后様のお小さい時には、まだ出版されていないはずだという。 皇后様に連絡 すると、すぐに陛下に相談され、「新美南吉が実際に書いた時期と、その本が出 版された時期が違うかもしれないから、それを調べてはどうか」という沈着な アドバイスを頂いたとのことだ。 そして、新美南吉が書いて雑誌に発表した 時期は、皇后様がそのお話を叔父様か叔母様か、どなたかにお聞きになった時 期と、齟齬がないということが確認された。

 ご講演はニューデリーの会場で放映され、ゆっくりと丁寧に語りかける皇后 様のお言葉は、人々の心の奥底にしみいっていくようだった。 終ると「涙が 出るほど美しい」と感激している人がたくさんいて、日本人と見ると握手を求 められた。 NHKは、数時間後に52分のご講演をノーカットで放映し、反響 が大きかったので、何回も放送、英語のバージョンには日本語のテロップをつ けて放送した。 日本中で見てもらうことができた。

 末盛さんがこのご講演を本にすることをお願いして、『橋をかける』という本 になった。 安野光雅さんが、カバーと扉に素晴らしく美しい麦の絵を描いて くれた。 お話の中で、皇后様は読書を通して、他の人の悲しみを知り、喜び を知り、愛と犠牲が分かちがたいということを知ったこと、そして、誰しも、 何らかの悲しみを背負って生きているということを小さい時に知ったと、新美 南吉の『でんでん虫のかなしみ』を引用して、語っておられる。

 末盛千枝子さんの『人生に大切なことはすべて絵本から教わった』(現代企画 室)という本の中で、森鷗外『即興詩人』の講演をしている安野光雅さんは、 末盛さんの依頼に、講演はしない建前を崩した内幕を「皇后様に英訳を頼みに 行くという編集者は、まず、いないですよ。皇后様に頼みに行った人なんて。 まどみちおさんの本もですね。」と明かしている。

 10月21日(?)、皇后様のお誕生日の会があって、古澤巌さんのヴァイオリ ンに、皇后様がピアノを弾かれ、『友情ある説得』と『ドクトル・ジバゴ』ララ のテーマが演奏されたそうだ。 皇后様は『友情ある説得』を、「千枝子さんの ために弾いたのよ」と言われたとか…。 古澤巌さんのブログを見たら、その 日のタイトルに「おめでとうございます」とあるだけで、どこで何があったか は触れず、「無事終了。」「沢山どらやき?桐箱!」「皆が幸せな日でした。」「あ りがとうございます。」とあった。

立川志の八の「悋気の独楽」2017/11/04 07:09

 10月31日は、第592回の落語研究会だった。

「悋気の独楽」       立川 志の八

「ねぎまの殿様」 時松改メ 三遊亭 ときん

「うどん屋」        柳家 さん喬

        仲入

「短命」          立川 生志

「付き馬」         三遊亭 小遊三

 立川志の八、11月1日に真打に昇進するので、二ッ目のラスト高座だという。  立川流、真打までに17年かかった。 誰のせいか、ということは口が裂けて も言えないけれど、男か、女かと言えば、男子。 次に出るときん師匠の方が 後輩だけど、先に真打になった。 妬(ねた)みは人間の本能だが、いい嫉妬 と、悪い嫉妬があるそうだ。 いい嫉妬はジェラシー、追いついてやろうとす る。 悪い嫉妬はエンビー、引きずり落してやろうとする。 時代はジェラシ ーだ(さかんに首を振る)。

 これから出かけるよ。 どちらへ。 寄席だ、噺家が面白い噺で、笑わせて くれる。 どうせ噺家が、お白粉つけて待ってるんでしょう。 寄席だよ。 行 ってらっしゃい。 行ってきやがれ、くやしい。 貞吉、旦那はおかしくない かい。 旦那のおかしいのは、今に始まったことじゃありません。 跡をつけ て、どこへ行くか、見て来てくれないか。 まだ、ご飯食べてません。 女中 のお清が、いじわるで、ご飯を食べさせてくれなくなります。 お小遣いをあ げるから。 いかほど。 五十銭。 五十銭か、何を買おう、夢がふくらむよ。  旦那、旦那、旦那――ッ。 何だ、貞吉じゃないか。 追い越しちゃった。 お 使いか、早くお行き。 旦那からどうぞ。

 ドンドン、私だよ、開けてくれ。 姐さん、旦那が見えました。 アラーー ーッ! 忙しくってな、なかなか来られなかった。 お供さんですか。 貞吉、 まだいたのか、うまいこと言って、帰してくれ。 はい、お小遣い、貞吉さん は甘い物がお好き? 目がないんで。 お清、栗饅頭を。 玄関で食べて帰っ て。 (一度に食べて胸をどんどん叩き)うちで、饅頭なんて頂いたことがな い。 こちらのお清さんはおきれいで、店の女中もお清ですが、いじわるでひ どい顔、やかましい。 ゆっくりして行きなさい。 この独楽はなんですか。  辻占の独楽、黒いのが旦那の独楽、赤いきれいなのが私の独楽、色のはげたボ ンヤリしたのがご本妻の独楽。 回して、旦那の独楽がくっつくほうに、お泊 りになる。 独楽、持ってらっしゃいな。 ありがとうございます、店で遊び 道具は、小僧には回ってこない。 早く、お帰り。

 行って参りました。 旦那は寄席に行かれました、間違いなく。 お友達と 会って、飲んで帰るから晩くなるそうで。 お清に言った、お握りがあるから。 立つんじゃないよ、そこで食べればいい。 饅頭とは、別腹で。 何? 美味 しゅうございました。 変な味がしなかったかい。 変な味? 梅干と、熊野 の牛黄散、嘘をつくと、血を吐いて死ぬ薬だ。 ずるい! 旦那はお妾さんの 所でございます。 いつも無駄をするな、辛抱しろって、言ってるくせに。 ど こなんだい。 根岸の里、女中のお清さんがおきれいで、うちのお清とはぜん ぜん違う、口が大きくて、鬼瓦みたいな。 本当のことを言わないと、血を吐 いて死ぬよ。

 お見せしたいものがある。 辻占の独楽、黒いのが旦那の独楽、赤いきれい なのがお妾さんの独楽、色のはげたボンヤリしたのがおかみさんの独楽。 回 して、旦那の独楽がくっつくほうに、お泊りになる。 回しなさい! お妾さ んの独楽から(クルッ)。 おかみさん血圧が上がりますから、気を静めて。 旦 那、ばれました、敵は卑怯な手で(クルッ)。 コツン。 お泊りです。 もう 一遍、やんな。 お妾さんの独楽、旦那と離れた隅の方で(クルッ)。 おかみ さんの独楽、旦那のそばで(クルッ)。 旦那が逃げる、逃げる、逃げる。  コ ツン。 お泊りです。 ぶつかるまで、何度もやりな! 駄目です、肝心の旦 那の独楽、心棒が狂っていますから。

時松改メ三遊亭ときんの「ねぎまの殿様」2017/11/05 07:57

 黒い羽織に、灰色の着物の三遊亭時松改メときん、ノーテンキな商売で、な いこと、ないこと喋って、気が付くと帰る、と言う。 客が10人、一番前の おじさんが5分ほどで安らかにお眠りになった。 特に問題はない…、落語に は枕がある。 大事な場面で「ガッ!」、他の9人が皆眠らずにがんばるよう に「ガッ!」。 一度も受けることなく終わると、楽屋口で最初に寝たおじさん が待っていて、手を握って「面白かった、よかったが、君、間が悪い」。

 師弟は親子のようなもので、かばん持ちで出かける、日本は狭いようで広い。  何年か前、帯広へ行って、食事で干物屋さんに入った。 間口の狭い、カウン ターだけの店、火を熾して、後ろに並んで書いてあるネタを焼く。 「わたし、 時価」とある、干物を焼いているおばさんらしい。 おいくらですか? 上目 遣いに、高いわよ。 干物には違いないけれど、煮ても焼いても食えない。

 本郷のお殿様、雪見障子から庭を眺めて、三太夫はおらぬか。 雪は豊年の 貢と言う、風流人なら一句詠むところだ、向島へ参るぞ。 今からですか、や めましょう、ということは口が裂けても言えない。 暇を出される、馘、浪人 はつらかった。 忍びで参る、三太夫、その方一人でいい。 馬で、パカッパ カッ。 三太夫はお年、大変だ。 湯島の切通し、今の春日通り、S字クラン ク。 秘密の情報ですが、湯島天神の宮司の倅が浪人中らしい。 上野広小路、 雪がビューーッと吹き付ける。 広小路は火除け地、江戸では五年に一度大火 があり、プレハブがすぐに建つようになっている。 墨堤へ、浅草寺から両国 橋、両国広小路、小料理屋や煮売屋が並び、鍋物や何かのいい匂いがする。

 縄のれん、余も入ってみたい。 苦しゅうない。 宮下、大神宮様の下へど うぞ。 柏手を打ち、床几を持て。 醤油樽に座布団がのってます。 ササを 持って参れ。 パンダの友達ですか。 酒だ。 三六(さぶろく)か、ダリで すが。 よい方だ。 ダリ一升、燗をつけて。 隣で食しておるニャアという のは何だ? ねぎまでございます。 そのねぎまを持って参れ。 ねぎま、お 待ちどうさま。 白、黒、赤の三毛、熱いの熱くないの。 美味である、美味 である。 熱っちー、この白いのは、鉄砲仕掛けになっておるの。 葱の芯が 飛び出した。 殿様、二合召し上がって、ご機嫌。

 お城に帰っても、ねぎまの味が忘れられない。 殿様、お好みは? ニャア にいたせ。 ニャアというのは、何か。 苦労するのは中間管理職、ニャアが お好みだそうだ。 三太夫さんに聞いて、ねぎまだとわかった。 ねぎま、言 ってみればジャンク・フード。 11月5日、トランプが御徒町のガード下、行 く店は「大統領」。

 台所方、マグロは極上の赤身、白髪葱をさらして、出す。 ニャアにござい ます。 三毛でなく、鼠色。 これはニャアではない。 また三太夫さんに聞 いて、三毛のニャアでございます。 鉄砲仕掛けになっておるか。 ダリを持 て、燗をつけて。 灘の生一本でございます。 まだ足りん! 醤油樽を持て!

(三六(さぶろく)は一合三十六文。ダリは駕籠屋などの符牒で四のこと、一 合四十文の灘の生一本のことだそうだ。)