福澤の自由主義には、かなりの制約2017/11/28 07:27

 池田幸弘さんの講演のつづき。 福澤諭吉は、『学問のすゝめ』初編でも、「自 由主義」に言及しているが、第八編とはかなり違うことを言っている。

 「人の天然生まれつきは、繋がれず縛られず、一人前の男は男、一人前の女 は女にて、自由自在なる者なれども、ただ自由自在とのみ唱えて分限を知らざ ればわがまま放蕩に陥ること多し。すなわちその分限とは、天の道理に基づき 人の情に従い、他人の妨げをなさずしてわが一身の自由を達することなり。自 由とわがままとの界は、他人の妨げをなすとなさざるとの間にあり。譬えば自 分の金銀を費やしてなすことなれば、たとい酒色に耽り放蕩を尽くすも自由自 在なるべきに似たれども、けっして然らず、一人の放蕩は諸人の手本となり、 ついに世間の風俗を乱りて人の教えに妨げをなすがゆえに、その費やすところ の金銀はその人のものたりとも、その罪許すべからず。」

 福澤の議論には随所に、日本の伝統的モラルに近い言説がみられる。 ミル の「危害原則」で、かなり大きな制約を受けている。 「一人の放蕩は諸人の 手本となり」世間の風俗を乱し、社会全体に影響を及ぼす。 福澤の考える「危 害の範囲」は、広い。 つまり、ウェーランド=福澤の自由主義には、かなり 制約があるといわざるをえない。

 ウェーランドと福澤の関係には、思想が他の国に入るプル要因があった。 ウ ェーランドを読んだので、福澤には書けた(プッシュ要因)。 福澤の側に、受 容する要因があった(プル要因)。 福澤の自由主義は、近世と近代の思想をど う考えるのか。 福澤の新しい側面をどう強調するのか。 近世(江戸時代) 的ファクターが超克されて、近代に移り変わっているようには見えない。 近 世的なものが、かなり大きなものが、見える。

 丸山真男は、1985年の福澤諭吉協会の総会での講演「福澤における惑溺」で、 日本思想における古層の問題を論じた。 日本の社会思想の基盤の上に、中国、 西洋から新しい思想が入ってくる。 古層は、われわれのメンタリティーから なかなか出ていかない。 それが近代社会の一側面である。

 質疑応答から。 平石直昭さんはコメントで、丸山真男の古層論は最近出た 『丸山真男講義録』別冊一56年・59年で、記紀神話からの古層への関心を示 しているとし、戦後の1956、57年前後には古層への言及が他にも沢山あった と指摘した。 桑原武夫は中里介山『大菩薩峠』について、中村元(仏教学) は1949年『日本人の思惟方法』でチベットと日本人の関係、原始神道、古神 道が仏教を受け容れるベースにある、きだみのる「日本文化の根底に潜むもの」 (『群像』連載)、加藤周一など。

 平石さんはまた、福澤は「自由主義」を定義したわけではない、「自由は不自 由の際に生ず」と『文明論之概略』で、ギゾーのフランス・リベラリズムから も書いている。 『学問のすゝめ』は、明治5年から9年にわたって17編が 出、1年以上の中断もある。 日本社会の大変化の時期だが、初編にくらべ、 第八編の頃は少し落ち着いている。 そういうコンテキストの中で、どういう 読者層を対象にしているか、読むべきと。

 小室正紀さんは、『学問のすゝめ』は、議論の本位、視点がちょいちょい変わ る。 ウェーランド『道徳科学要綱』第1巻は個人道徳の制約を述べているの で、それが『学問のすゝめ』初編に出ている。 古層の問題、丸山真男の「福 澤惚れ」は福澤が古層から一番遠いところに来ていたからではないか。

(余談だが、渡来文化の受容については、昨年2月13日・14日放送のNHK スペシャル「司馬遼太郎思索紀行 日本人とは何か」について、下記で書いて いたことを思い出した。

「名こそ惜しけれ」「恥ずかしいことはしない」<小人閑居日記 2016.3.13.>

http://kbaba.asablo.jp/blog/2016/03/13/

武士道の「公」意識と近代史<小人閑居日記 2016.3.14.>

渡来のものへの好奇心、柔軟な受容<小人閑居日記 2016.3.15.>

「日本文化」の誕生、明治近代化の秘密<小人閑居日記 2016.3.16.>)

コメント

_ 轟亭(丸山真男の「原型・古層」論) ― 2018/03/13 10:14

平石直昭さんのコメントに関連して、「外来」思想の「日本化」、丸山真男の「原型・古層」論<小人閑居日記 2018.3.12.>、中村元、きだ・みのる、桑原武夫の「原型」的関心<小人閑居日記 2018.3.13.>を書いたので、ご参照下さい。

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