柳家さん若の「水屋の富」2017/12/02 07:18

 29日は暖かい日で、第593回の落語研究会だった。

「水屋の富」    柳家 さん若

「紋三郎稲荷」   柳家 小せん

「らくだ」     古今亭 菊之丞

      仲入

「持参金」     瀧川 鯉昇

「中村仲蔵」    柳家 花緑

 さん若、落語研究会は二度目(去年2月「鈴ヶ森」)、声をかけて頂けるのが 有難い。 今後も呼んでもらえるように修業するので、お聞き流し程度で、と。  江戸は水が貴重だった。 海水が滲みていて、下町は塩水だったから、神田上 水、玉川上水で水道を引いた。 「水屋ーーーッ、水、冷やっこい、冷やっこ い」と言って、売って歩いたかどうかは、分からない(朝ドラ『わろてんか』 にひっかけたんだろう)。 水屋の清兵衛さん、町々の時計となれや小商人、子 供に飲ませるとか、病気の婆さんが飲むという隣町の親父、糊屋の婆さん、待 っている人には命の綱だ、年を取ったので辞めたいけれど、譲る人がいない。  湯島天神の富を買った。

 甲高い声で小僧が、おん富一番…、鶴の、五千、七百、三十ーーーッ…。 (一 人の男)(鶴の、)鶴の、(五千、)五千、(七百、)七百、(三十、)三十、七番だ ろ。 一番! 何だ、と桜吹雪で、いなくなる。 清兵衛がやってきた。 私 のは、鶴の、五千、七百、三十一番。 三番富は、亀。 二番富は、松か。 一 番富は鶴だ、鶴の五千、七百、三十一番。 私が、鶴の、五千、七百、三十一 番、当らないねえ。 一番富は、鶴の五千、七百、三十一番。 私が、鶴の、 五千、七百、三十一番、ちょっとの違いだ。 同じじゃなきゃいけないの、鶴 の、五千、七百、三十一番、(懐に仕舞おうとして)ハハハハハ、懐がない! 懐 がない! タッタッタッタッ! 立ったって言って、座ってちゃあしょうがな いよ。 ハーーハーーハーー! 腰が抜けたんだ。 おい、みんな、この人一 番富当ったんだってよ。 運んでってやろう、ワッショイ、ワッショイ、ワッ ショイ! 係の人ですか。 札をお渡し下さい。(渡すのをためらう) 大丈夫 ですよ。 鶴の五千、七百、三十一番、間違いございません。 下さい、下さ い! 差し上げます、今ならお立替料を引いて八百両、三ヶ月待てば千両にな りますが。 今、下さい、財布あります。 八百両は、入らない。 じゃあ、 と着物を脱いで、モモヒキを袋状にした。 頭いいな、今までお足が入ってい た。 八百両あれば、何でも出来る、水屋なんてやってなくていい。

 家に帰って、どこに隠そう、押入れの、行李がいい。 行李の着物の下。 ひ ょっとすると泥棒が、押入れの、行李の、着物の下を見つけるかもしれない。  神棚がいい、湯島天神の立派な神棚だ。 泥棒が入って、立派な神棚だなあ、 すぐ見つかっちゃう。 水がめだ。 泥棒が、押入れ、行李、着物の下、神棚、 水がめと見回して、喉が渇いたな、水を飲もうって、バレちゃう、バレちゃう。  どうする、縁の下だ、畳を上げ、床板はがし、根太に五寸釘を打って下げよう。  ときどき竹竿で、さわればいい。 これでいい。 湯へ行って、ちびりちびり やる。

 トロトロッとしたら、「おい、金出せ」と泥棒。 金なんて、ねえや。 湯島 から子分に付けさせたんだ。 覚悟しろ! ドスで胸を刺された。 なんだ、 夢か。 また、トロトロッとすると、今度は首を刀で斬られて、スッポンと飛 んだ。 また夢だ、寝ちゃあいられない、仕事に行って来よう。

 長屋の入口に、見慣れねえ奴がいる、目をそらしたぞ。 見慣れねえ女がい る。 見慣れねえ豆腐屋だ、見慣れねえ犬だな。 八百両、八百両…。  いけねえ、遅くなっちゃったよ。 清さん、子供が日干しになっちゃうよ。  茶を飲むのが楽しみなのに。 あちらで叱られ、こちらで叱られる。 竹竿で 縁の下を確かめ、湯へ行って、寝る。

 泥棒が入って、ドスで刺され、首がスッポン、また夢だ、寝ちゃあいられね え、仕事に行って来よう。 八百両、八百両…。 水屋さん、何時だと思って んの。 あちらで叱られ、こちらで叱られる。 竹竿で縁の下を確かめ、湯へ 行って、寝る。  グーーッと寝こんでしまう。 トントン、清兵衛さん、俺だよ、六だよ。 お 前さん、何も聞いてねえか。 店立てだ、大家が小豆相場で穴あけて、長屋を 売ることになって、今日で出ていかなきゃあならねえ、清兵衛さん、この長屋 を買い取ってくれよ。 そんな金はないよ。 湯島で八百両当たったのがある じゃないか。 おばあさんが、この年で野垂れ死にするしかない。 みんなで、 清さん、清さん! おっちゃん、おっちゃん! なんだ、夢か。 寝ちゃあい られねえよ、仕事に行ってこ。 竹竿で縁の下を確かめて、出かける。

何だ、あの水屋の野郎、何やってんだ、あいつ。 向かいに住む、遊び人の 徳。 畳を上げ、床板はがすと、根太にぶら下がっているものがある。 金だ、 ありがてえ、堪忍してくれ、と、逃げて行く。

清兵衛さんが帰って、竹竿でスーーッ、あれ、アッ、俺の八百両がねえ、ち きしょう、八百両がねえ。 ウエーーーッ……、エヘヘヘ、今夜は、よく寝ら れらあ。

 さん若、このやりきれない暗くなりがちな噺を、リフレインを効かせ、明る く演じて、なかなかの出来だった。