古今亭菊之丞の「らくだ」前半2017/12/04 07:11

 この商売やって、25、6年になります。 前座の時、お茶を出すのも大変で、 師匠方にいろいろお好みがある。 お一人に三回出す、コーヒーとか、アメリ カンという人もいるし、お茶、白湯、水のみ、という方もいる。 橘家圓蔵師 匠は出さなくていい。 自分が前座の時、ゴミを入れてたから…。 噺家にな って、焼肉を初めて食べた、家で鉄板焼きはやっていたけれど、カルビ、タン 塩なんてのは、真打披露の打ち上げで初めて。 ふぐ、兄弟子の真打披露で初 めて、煮凝り、ふぐ刺し、焼きふぐ、鍋、雑炊。 真打披露、借金してご馳走 するのは、悪しき習慣。 ふぐを関西では鉄砲、テッチリ、テッサなどと言う。  銚子の方では「富」と言う。 なかなか当(中)たらないけれど、たまに当(中) たる。 島原ではトラふぐを「ガンバ」と言う、ガンバコ(棺桶)を横に置い ても食いたいほど美味いが、城主が禁じた。 島原は、隠れてやるのが上手い。  私鉄沿線の先の方で、安普請の店に連れていかれた。 こういう店は、安くて、 中たらないんだ、と。 カワハギだった、似ているけれど、ふぐじゃない。 新 真打の打ち上げで、ふぐ刺しをご馳走になる。 25年も経つと、5、6枚一気 にやっている。

 あるお長屋に、本名馬太郎、あだ名が「らくだ」という男がいた。 目の寄 るところに玉、同じ輩(やから)が来て、らくだ、いねえのか、何だ、こんな 所に転がってやんな、昨日大きなふぐ下げてたが、中たったんだ。 弔いの真 似事でもしなけりゃあ。 「くずーーい!」 おい、こっちへ入れ。 らくだ さんは? そこに転がってるよ。 死んじゃったんですか。 俺は、らくだの 兄弟分だ、年はこいつの方が上だが、兄ィ、兄ィって呼ばれてな。 何か、も ってけ。 ここのうちには、いただくものがない。 土瓶は針金で鉢巻してい る、取るとぐずぐずになる。 どれもいっぺんは買わされている、自分の物の ような物ばかり。 裸で申し訳ないが、線香の一本でも、これで手向けてやっ てください。 おためごかしの親切心か、月番のところへ行って来てくれ。 下 駄の歯入屋さんで。 長屋には祝儀不祝儀の付き合いがあるだろう、香典をま とめて届けてもらいたい、と。 ザルと秤(はかり)置いてけ。

 こんちは。 なんだ、屑屋さん。 らくださんが死んじゃった、ふぐに中た って。 そうか、ふぐもよく中たってくれた。 祝儀不祝儀の催促に行くと、 首を絞めたりするんだ。 それが兄弟分という顔中傷だらけの人がいて、弔い の真似事をするから、香典をまとめて届けてもらいたい、と言ってます。 ら くださんに輪をかけたような、すごい人ですよ。 回ってみるよ。

 行って来ました。 もう一軒行って来い、大家のところだ。 大家と言えば 親も同然、お越しいただかなくて結構だが、子供に飲ませると思って、いい酒 を三升、芋に半ぺん、こんにゃく、塩を利かせて煮てどんぶりに二杯、届けて もらいたい。 出せないってぬかしたら、死人をかつぎこんで、カンカンノウ 踊りをご覧に入れますって、言って来い。 屑屋、俺はやさしく言っているん だぞ。

 ごめん下さい。 なんだ、屑屋さん、来たばかりじゃないか。 らくださん …。 ダーーッ、帰えんな、らくだのことは名前も出すな。 死んじゃったん ですよ、ふぐ食って、ふぐ死んだ。 ウフフフフ、イヒヒヒヒ、ハッハッハ、 よく知らせてくれたな、横丁のヘッポコ占い師が、近くお長屋にいいことがあ るだろうって言っていたが、それだったか。 婆さん喜べ、らくだがくたばっ たってよ。

 らくださんの兄弟分という人がいて、弔いの真似事をするから、その方が言 うのには、大家と言えば親も同然、お越しいただかなくて結構だが、子供に飲 ませると思って、いい酒を三升、芋に半ぺん、こんにゃく、塩を利かせて煮て どんぶりに二杯、届けてもらいたい。 お前、らくだは越してきて三年、一回 も店賃を入れたことがない。 こないだ、店賃を払うか、出ていくかどちらか にしろと言ったら、どちらもできねえってぬかす。 じゃあ、払うまで動かな いって言ったら、本当に動かないなって、薪ざっぽうを持ち出した。 慌てて 逃げ出して、買ったばかりの下駄を置いてきた。 翌日、らくだがその下駄を 履いて、家の前を通って湯に行きやがった。

 出せないってぬかしたら…、おっしゃったら、死人をかつぎこんで、カンカ ンノウ踊りをご覧に入れますって、言ってますが。 面白い、死人のカンカン ノウ、踊らしてもらおうじゃないか、そんなこけおどしは効かねえや、俺も因 業大家で通っているんだ。

 何、三年、一回も店賃を入れたことがねえ、当り前だ。 三年分の店賃は棒 引きだ、向こう向け。 アッ、冷たい、あんた何をするんです。 本当に踊ら せるんですか。 しっかり、おぶえ。 らくださんの顔、向こうに向けて下さ い。 死骸を、そこへ立てかけろ。 お前、カンカンノウを歌え。 歌わねえ か。 ♪カンカンノー、キュウライス! わかった、わかった、持ってくよ。  婆さん、塩を撒け。 屑屋は、馬鹿だなあ。

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