古今亭菊之丞の「らくだ」後半2017/12/05 07:22

 それでは、ザルと秤を、商いに行かないと釜の蓋が開かないんで。 もう一 軒、行って来い、ガンバコがない、表の八百屋で菜漬けの樽をもらってこい、 四の五の言ったら…。 カンカンノウを踊らせるんで。 なんだい、屑屋さん。  らくださんが、死んだんです。 よかったな、みんな喜んでるだろう。 兄弟 分ていう、すごい人が来て、私だけ泣いてんです。 その人が、菜漬けの樽を もらってこいって。 親戚か、とんでもねえ、らくだは、店の前を通ると、沢 庵でもなんでも持ってちゃうんだよ、首絞めて。 駄目だよ、菜漬けの樽は商 売物だ。 じゃあ、貸していただけますか、空いたら返しますから。 冗談じ ゃない。 お座敷が増えて困っちゃう、死人にカンカンノウを踊らせるって。  見てえな。 まさかと思うでしょ、大家さんは腰を抜かした。 裏の樽、持っ てけ。 縄も下さい。 持ってけ。 天秤棒も。 天秤棒は駄目だ。 カンカ ンノウ。 持ってけ。

 菜漬けの樽、もらって来ました、縄に天秤棒も、樽は井戸端で水張ってあり ます。 月番が香典、婆アが酒と煮しめを届けて来た。 お清めだ、一杯やれ。  一杯だけ。 いっぱいになっちゃった。 フッ、ザルと秤を。 もう一杯飲め、 飲めよ。 優しく言ってるんだぜ。 (押さえつけて注ぐ)いっぱいになっち ゃった。 商いに行かれない。 駆けつけ三杯だ。 いや、もうちょっと、入 ります。 えーーっ、いいお酒ですね、本当に大家さんが持ってきたんですか。  家では、かみさんが早く死んじゃって、お袋と子供なんですが、小さい子供が お酌をしてくれる。 半ぺんを、うまく煮やがったな。 だけどねえ、あなた 偉いよ、一文無しでこれだけの支度しちゃうんだからね。 らくだの野郎、人 様にさんざん迷惑かけてね。 ある時、汚たねえ野良ネコを抱いてやがった。  明くる日、屑屋、猫の毛皮買えってんだ、食っちゃったんだね、驚いちゃった。  何度、張り倒してやろうと思ったか、何度、ぶっ殺してやろうと思ったか。 お い、何ボサッと見てるんだ、注げよ。 もう、腰をあげちゃあどうだ、釜の蓋 が開かないんだろう。 注げよ、注げ、優しく言ってるんだぜ。 誰が稼いだ 酒なんだ、ケツを上げんだよ、手前のケツじゃない、徳利のケツだ。 酒がな くなったら、大家の所へ行って来い。

 湯潅の真似をしてやるか。 頭、坊主にしてやるんだ。 剃刀なんか、いら ねえ。 チョイ、チョイ(と、毛を引き抜く)。 抜くな、やめろよ。 痛かね えってよ。 もう、そのへんでいいんじゃないか。 菜漬けの樽に、入れるか。  頭が出てんじゃないか、死んでも迷惑かけやがって、ギュッと押し込めばいい んだ。

 何から何まで、すまねえな、なあ、兄ィよ、頼みがある、らくだの寺がない んだよ。 うん、友達が落合の焼き場、火屋(ひや)の隠坊をやってる。 二 人でかついで行こう。 ドッコイサノサ! 知らんふりしやがって、弔えだ、 弔えだ! ドッコイサノサ! 高田馬場のあたりを過ぎて、落合の火屋へ向か う道が、泥だらけで転ぶ。 すっかり軽くなったな。 開けろ、酔っ払いの隠 坊! 屑屋の久さんじゃないか、お前も一杯やるか。 貧乏長屋の弔いだ。 焼 場の切手はない。 内緒で焼いてくれ、吉原の割り前で。 樽ん中、からっぽ だぞ。 さっき、ひっくり返った時、落っことしちゃったんだ、拾いに行こう。

 願人坊主が酔っ払って地びたで寝ているのを、あった、あった。 あっ、苦 しいよう。 死んでるのに、うるせえよ。 拾ってきたよ、どんどん焼いてく れ。 樽ごと放り込んで、アツ、アツ、アッチッチ! 生き返りやがった、頭 つぶしときゃあよかった。 なんてことをしやがるんだ、ここは、一体どこだ。  ここは、日本一の火屋だ。 なに、ひやだ? 冷酒(ひや)でもいいから、も う一杯くれ。

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