瀧川鯉昇の「持参金」前半2017/12/06 06:35

 鯉昇は黄色い羽織で見回して、芸協(落語芸術協会)は入り方が違う、ナイ チンゲールは…、こう後進を教えたと、始めた。 一、手本を示す、二、やり 方を教える、三、やらせる、四、褒める。 われわれは、やり方を教えない、 やらせてみせて、けなす。 入門以来、人間不信に陥り、明るい青年がだんだ ん暗い人間になって行き、傷をなめ合う。 なかなか縁がなくて、幸せになる 夢がない。 ただ、師匠の柳昇は世話好きで、前の話が終っていないのに、次 の話を持って来る、一日に三件になったりする。 三件目になると、経歴なん かゴチャゴチャ、見合いは80回ぐらいやっている。 10回目のなんか、女性 が時計を見ながらソワソワし出したから、聞くと、主人がそろそろ帰る時間で、 と。 なかなか、いいのがいない。 焦っている時には、縁がない。 やがて、 寄席の楽屋にいた人と、縁ができた。 挨拶が肝心だぞと徹底して教えられた。  まだ暗い時間帯に出掛ける。 玄関で正座して、行って参ります。 寝床の中 で、オウ!

 開けるよ、具合悪いの、寝てるのか。 何で、起きてんの、普通寝ているだ ろう、いいよ、聞こえるから。 話しづらいんだよ。 寝る? 起きて、起き て。 金を返してもらいたい、十円、いつかお前に都合をつけた。 覚えてい るよ、番頭さん、返す気はあるけど、銭がない、仕事がねえから、寝てるんだ。  俺、どうしても金がないと、どうしようもないことになってるんだ、今晩取り に来るから、つくってくれ、頼んだよ。 起きなきゃあ、よかった。

 私だ、甚兵衛だ、起きなよ、早起きは三文の得というだろう、大事な話があ る、起きて、起きて。 寝る? すごい家だね、ほこりだらけだ、歩いた所だ け畳が出ている。 暮らしを変えないか? 畳屋に越すの。 少しきれいにし たらどうか。 ようがすよ。 所帯を持つと片付く。 来る相手がいない。 も らう気はあるのか。 嫁さんの話か、仲人口と言うな。 包み隠しもしない、 年がだいぶ上、姉さん女房だ。 いまだに一人でいるのは、器量が悪い。 す ごくわかりやすいね。 ただ、心持がいい、腹の中がきれいだ、表は傷みが来 てる、裏返しにしたらどうかという意見もある。 個性のかたまりのような、 背がすらっとして、ない、(手を広げて)横幅だ、これが(手を横に広げたまま) 高さ。 目方があるんで、ふだんから足がつる。 色が抜けたように、黒い、 裏表は慣れると分かる。 特徴だらけの顔をしている、オデコが出てる、真ん 中に黒い線、眉毛がゲジゲジで、上野の公園に立っている人の、連れている犬 のだ、目が奥の方で、奥ゆかしい黒い光を放っている。 特徴は鼻、穴は地べ たを見ていないで、景色を見てる、煙草を吸うと、煙がまっすぐ上り、眉の黒 い線が見つけやすい。 口は大きいから、物をこぼさない。 鳩胸、でっちり、 足は大きい、十六文甲高、普通に歩いても、四股を踏んでいるようだ。 一通 りの習い事をしたが、何一つとしてものにならなかった。 おまんまは三人前 食う。 人前では舌がもつれて話せないが、裏ではベラベラ話をして、腹に収 めておこうという料簡がない。

 それで、たった一つだけ、傷がある。 エッ、今までのは傷じゃないの。 腹 に八か月になる子供がいるんだけど、どう? お前んとこの嫁に。 いいです、 それ聞かなかったことにするから、いらない、嫁は欲しいけど、これはいらな い。