瀧川鯉昇の「持参金」後半2017/12/07 07:04

 嫁は欲しいけど、これはいらない。 そう、お前ならいいかと思ったんだが な、持参金が十円つくし。 エッ、この話、何か光が差して来た。 それ、ち ょうどいい、下さい、下さい。 向うに行って話してみるよ。 今晩、欲しい、 明日になるといらなくなるかもしれない。

 その晩、婚礼ということになる。 少し掃除をしておけと言っておいたけれ ど、驚くんじゃないよ、慣れだから、我慢して、我慢できない時は、私の所に 来るように。 仲人は宵の口というから、これで。 ちょいと、待って下さい、 十円は? 明日朝、届ける。 当人が笑い出して、泣いてる。 もう、寝まし ょう。

カラスカアで、夜が明けて。 十円できたか? 今朝届く。 待たせてもら うよ。 金の使い道は、何なんだ? ちょっと、話をするけれど、実はお店の 寄合の新年会へ、主と出かけた。 隣が伊勢屋の番頭で、お酌上手、すっかり 出来上がって、ようやくお店にたどりついた。 女中が一人待っていた、普段 は表に出さないようにしている、ずんぐりむっくりなんだが、それが親切な女 で、水だ、おしぼりだと、面倒を見てくれた。 起きているのは二人きり、つ い袖を引いた。 悪女の深情け、八か月になる子供が腹にいることになった。  小間物屋の甚兵衛さんに相談すると、どこかの馬鹿に、十円の持参金で嫁にも らってもらおうと言う。 昨夜、そういう馬鹿が現れた。

 俺、昨夜、所帯を持ったんだ。 小間物屋の甚兵衛さんの仲人で。 お腹の 子のお父っつあんは、番頭さん、お前か。 肩の荷が下りた、困った時があっ たら、番頭さんに相談するよ。 甚兵衛さんは、向こうで待っている。 そう すると、持参金の十円は、ぐるっと一回りして…。 昔の人はうまいことを言 った、金は天下の回り物。