柳家花緑の「中村仲蔵」前半2017/12/08 07:06

 花緑は黒紋付、何人か弟子がいる、師匠で祖父の小さんに相談したら、「取り なさい、教えることは学ぶことだから」と。 自分が苦労した上での言葉だろ う、あの談志師匠まで育てたんだから。 浜松出身の弟子が二人いる、鯉昇師 は浜松出身だけれど…。 コミュニケーションが難しい(鞄持ちの時間の打ち 合わせについての、くいちがいの例を二つ挙げたが、よくわからなかった)。 伝 統芸能の根幹には、師弟関係がある。 歌舞伎と同じだ。 士農工商、道路を 行くのも、士が七分、農工商があとの三分、噺家はドブの中。

 落語家は、真打、二ッ目、前座。 歌舞伎では、大立役、名題、名題下、相 中、稲荷町。 どの町にも小屋があり、最下級は小屋付きだった。 「初代に 名門なし」という。 中村仲蔵が名題下になって、役がついたが、大した役じ ゃない。 「申し上げます、堀尾様がお越しになりました」というだけ、衣裳 は自前で、金がかかるから、副業に楊枝削りをしている。 セリフの書き抜き を持って来る。 小屋が代わっての初日、絶句した。 一年に五回ある、一、 三、五、七、九月、三月は桃のゼック。 本舞台に入って、中央に名優市川団 十郎、そばに寄って、耳元で「親方、台詞を忘れました」とささやくと、「堀尾 様がお越しであるか、早速これへ」。 謝りに行くと、よく早速(さそく)の機 転で俺の所へやって来た、楊枝削りの内職止めちまえ、居候に来い、と言った。  死ぬほど嬉しかったが、私の親方、中村伝九郎が何と言うか。 小芝居の役者 は、檜(舞台)と違う。 成田屋の親方の所で、修業しなさい、と言ってくれ た。 これは四代目の団十郎、五代目になる倅がいた、海老蔵といったかどう か。 仲蔵は次第に実力をつけていく。

 名題に昇進した八月、『忠臣蔵』五段目の斧定九郎の役をふられた。 名題と しては不足な役だ。 五段目はちょうど昼時で弁当幕といわれ、客は熱心に見 ない。 芝居は当時、自然光だったから、日の出に始まって、夕方終る。 落 語は、夜席専門で、蝋燭の下で演じ、トリが芯を打って終るから、真打といわ れる。 四段目は腹切り、七段目は一力の茶屋、その間に挟まった五段目は弁 当幕ということになる。 斧定九郎のたった一役、砥の粉地の赤塗り、山賊だ。

 女房に、ひでえ役だ、俺はもう芝居を辞めたいよ、と言う。 鶴の一声で名 題になった、お前さんに誰も文句を言わないね、何か自分の工夫を入れてきな、 それがいい五段目にするんじゃないか、と親方は考えられたに違いないよ。 自 分の斧定九郎をこしらえれば、いいじゃないか。 お吉、お前は大した女だ、 そうか、俺がやっかまれないように、この役にしてくれたんだ、お吉、有難う よ。 ですから、おかみさんは大事、本日のサブタイトルは「おかみさんは、 つらいよ」。 もしお吉が違う人格だったら、どうなったか。 そんな役をふら れて、辞めちまえなさい、ばっかじゃない、辞めてよ、辞めてよ。